虜にさせてみて?
繋がる心と身体

17時半を過ぎたばかりで、開店したての居酒屋はお客様も少なく席は空きが沢山あった。

「お酒、頼んでも良い?」

お酒のメニューとにらめっこしている響に、遠慮がちに聞いてみた。

響は飲まないだろうから、飲みたいけれど勝手に注文するのも気が引ける。

だいたい、男の子が飲まないのに女の子だけが飲むのってどうなの?気にし始めたら止まらない。

「うん。俺はコーラのハイボールにする」

「えっ? 大丈夫?」

「……いいだろ、別に」

「響がいいなら構わないけど」

響が自らお酒を頼むなんて珍しい。

お通しとお酒が届いて、まずは乾杯した。

「ひ、響? あのさ、一気に飲んだら駄目だよ」

「大丈夫だ、酒の味はあまりしないから」

確かにチェーン店の居酒屋の配分は、お酒の割合が少ないと思うけれど、響にはキツイんじゃないかな?

お酒の味がしないからと言って、一気に飲んだら直ぐに酔いが回る気がする。

「次は何にしようかな?」

様子がおかしいと思ってたら、おつまみが届く前に、この人はジョッキのハイボールを飲み干してしまった。

響はまさか、お酒の飲み方を知らないんじゃ。

嬉しそうに吟味しながらメニューを見ている姿は可愛く思えて、そんな姿を見れた事は感激なのだけれども完全に酔っていると思う。

バーテンダーなのにお酒に弱くて、お酒の飲み方を知らない人は中々居ないかもしれない。

「響ってさ、バーテンなのにお酒飲めないしカクテルの配分とかどうしてるの?」

「分量さえ覚えてれば別に。でもマティーニは、分量が同じでも冷やし方一つで味が変わるから難しいな」

マティーニは、確かバーテンダーの技量が分かってしまうカクテルだよね?

響がマティーニを飲んだら倒れそうだし、味比べなんて無理だろうな。

「梅酒を追加で。お前は?」

「同じで、梅酒でお願いします」

おつまみを運んで来た店員さんにすかさず注文をして、届くと再び乾杯をした。

「あのさ、気持ち悪くならない?」

「今日は大丈夫な気がする! 飲めるようになりたい」

体質的にお酒が合わないんだと思う。

真っ赤にはなっていないけれど、ほんのりと頬が赤くなっていて、可愛いなんて言ったら拗ねるのかな?

何故、ハイボールの後に梅酒を選んだのか、謎だ。もしかして、甘いから飲みやすいと思ったのかな?
< 113 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop