虜にさせてみて?
「何を笑ってるんだよ? どうせ、シュンみたいに酒も強くないし、あいつみたいにストレートに言えねぇよ」

酔っている響が本当に可愛くて、つい顔が綻んでしまった。響はそれが気に入らなかったみたい。

「あの時言わなかったけど、シュンは本当はお前の事が好きなんだ」

「……え?」

「でも、俺だって手離したくないから言わなかった。ズルイんだよ、俺……」

“あの時”――とは、夜中に響が呼び出された日の事かな?

以前だったら、その言葉に揺らいだのかもしれないが、今は響が一番だからシュンなんてどうでもいいの。

「シュンの事なんて、もうどうでもいいよ。あんなに好きだったのに今は何とも思わない。それに、手離したくないなんて嬉しいっ」

テーブルに置かれた手をそっと握りしめると、響は「やめろっ」と言って振り払った。

咄嗟に出た言葉に反応して一喜一憂してしまう。

今日はお酒抜きで初めて『好き』と言って貰えたし、後はお酒混じりの本音でも嬉しい。

私しか知らない響の裏事情は沢山集まったかな?

その後、しばらく居た居酒屋を出てから、『ラーメンが食べたい』と言い出した響。

フラフラと通りすがりのラーメン店に立ち寄ってから、ホテルに戻った。

あの後は身の危険を感じたのか、響はウーロン茶を注文した。

私はと言うと響が『遠慮しなくていいから』と言うのでもう一杯だけ、お酒を飲んだ。

「お風呂、響が先に入る?」

「お前が先に入っていい。何なら、一緒に入る?」

「……ヤダ」

ほろ酔い気分の響は言う事も大胆になるので、可愛いけれど油断大敵。

シャワーを浴びながら、何故か、シュンが思い浮かんだ。

きっと、先程に響が話題に出したからだろう。

シュンとの初めての旅行も、こんな風に楽しかったな。

一度きりだったが、ドキドキが沢山あって初めての事ばかりで。

響とは少しでも長く居たいし、旅行も近場のデートも沢山したいな。

万が一、別れが来たとしても、ただ寂しくて泣くだけではなくて、『有難う』という気持ちも沢山たくさん、籠ってますように。
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