君を愛せないと言った冷徹御曹司は、かりそめ妻に秘めた恋情を刻む
「ああ。あのあとすぐに眠ってしまったから、風邪をひくといけないし着せておいた」

「ええっ」

袖を通したりされても起きなかった自分に驚いた。

無防備を通り越し、図々しいにもほどがある。

「すみませんっ」

「いや、役得だ」

「役得……私の裸、いっぱい見ましたか……?」

恐る恐る訊いてから、訊かなければよかったと後悔した。

郁人さんは少し考えるような顔をする。

「それなりには見たな」

「やだ……」

私が泣きそうになると、彼は声を上げて笑った。ひどい。絶対におもしろがっている。

「冗談だよ。まったく見ていない」

不審な目を向ける。

絶対嘘だろうけれど、そういうことにしてもらおう。

「私、シャワーを浴びてきますね」

「ああ、行っておいで」

郁人さんに見送られ、バスルームに向かった。

昨夜の余韻でまた頭の中がとろんとしているし、体のあちこちに未知の感覚が残っている。

今さらながらいろいろと思い出し、パニックになりそうだった。

とりあえず彼の前で醜態を晒さなくてよかった。

ひとしきりお風呂の中で振り返ってジタバタしてから出て行くと、彼がルームサービスで朝食を頼んでくれていた。

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