夏色モノクローム
 部屋の電気が消され、遮光カーテンで窓を閉ざされた部屋は、ひどく薄暗い。
 が、PCのディスプレイ――モノクロームの写真が映し出されるスクリーンセーバーが、部屋の中を静かに照らしていた。

 遠くから、何かやりとりをする兄弟の声が響いている。
 でも、そんなもの、今の里央の耳には届かない。

 この匂い。
 アルコールのような、独特な――この匂いを、里央はよく知っている。
 絵の具の匂いだ。

 ハードディスクの機械音が静かに部屋に響いている。
 ディスプレイの灯りが、反対方向の壁を照らす。ゆっくり。ゆっくり。写真は入れかわり、その反射光が移動していく。

 整然とした彼の家からは考えられないほどに、荷物が積み上がっている。
 サイズの異なる棚がいくつも並べられていて、キャンバスと資料が押し込まれ。壁にはデッサンやメモ、風景写真が無数貼られていた。
 それらのモノクローム。
 ディスプレイから移動する光を目で追う。
 立ち並んだ棚の向こう。広い空間に、ひとつだけぽつりと置かれているイーゼル。
 描き途中の風景。そこまで、スクリーンセーバーの光は直接届かない。だから、今はうすぼんやりと見えているだけ。
 でも、そのぼんやりと見える景色を、里央はよく知っている。
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