夏色モノクローム
 見つけた。
 これが、彼だ。
 探しても探しても見つからなかった杠葉志弦の心のありか。

 里央は床にへたり込んだまま、ゆっくりと振り返り、彼のことを見上げる。
 そして絵画と同じように、彼に向かって手を伸ばした。

 志弦が、その場に立ち尽くしたまま表情をくしゃくしゃにしている。
 宙ぶらりんになっていた彼の手の――指先が、里央の指先に触れ――やがて、きゅっと握りあう。
 少し引っ張ると、簡単に彼は里央のもとに落ちてくる。その場に膝をつき、里央を背中から抱きしめるようにして、肩口に顔を埋める。

「やっと、掴まえた」

 そう伝えると、志弦は大きく震えた。

「ね? もう、全部晒されちゃいましたよ。あなたの臆病なところも、弱いところも、全部」
「……」
「怖いものなんて、ないです。臆病になる必要だって、もう」

 彼が、浅く息をしているのがわかった。
 そして、長い沈黙の末、噛みしめるようにして呟く。

「……そうか」

 彼がゆっくりと、顔を上げた。眼鏡のレンズ越しに、彼と目が合って。

「こんな情けない。たった一歩すら踏み出せなかった、だめな大人でも?」

 彼の瞳が揺れる。
 でも、その恐怖は里央だってよく理解できる。

「私も怖かった。あなたが遠い世界のひとのような気がして、住む世界が違いすぎるんじゃないかって。――でも、ちゃんと、見つけました。本当のあなたを、ここに」

 だから、里央はほんのちょっと、勇気を出すだけでいい。

「あの三叉路で。私が手を伸ばしたら、届く距離にいてくれたんですね」
「掴み返していいのか?」
「もちろん」
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