夏色モノクローム
きゅっと。緩く繋がれた片手の指先に力が籠もる。
彼が、今度は自分から近づいてくれる。ゆっくり、ゆっくりと顔を近づける。
里央も、彼の方を向いて、静かに瞳を閉じて。
唇が重なる。
触れるだけのキスに、胸がいっぱいになって、里央は微笑んだ。
「ったく。俺の絵と、同じ顔しやがって」
「志弦さん」
「……クリエイターってのは、結局。好きなものを、理想にかえて、描いちまう。――おまえはやっぱ、俺の理想そのままだったんだなあ」
「ふふ」
諦めるように言いながらも、志弦だって笑っている。
「ただ、一個だけ」
「?」
「おまえ、俺のこといろいろわかったつもりでいるみたいだが。肝心なところ、抜けてるぞ」
なんだろう、と思いぱちぱちと瞬く。
「現ノ最中」
そう。それが彼の正体で。
あの絵のタッチ、見間違えるはずがないのに。
「あれ、本当は“うつつのさなか”って読むんだ」
「え」
里央は目を丸めた。
「どれだけ絵の中に逃げたつもりでも、現実からは逃げられない。そんな意味でつけたのにな。――この現実が、悪いものじゃあなくなっちまった」
「うつつの……さなか?」
ぽつりと呟くと、彼が可笑しそうに目を細める。
「おまえが好いてくれてた歪みも、もう描けないかもな。こりゃあ、おまんまの食い上げだ。――――責任、とってくれるよな?」
そう言って、彼はもう一度顔を近づける。
重ねられた唇は、からかうような彼の声とは裏腹に、ひどく甘かった。
彼が、今度は自分から近づいてくれる。ゆっくり、ゆっくりと顔を近づける。
里央も、彼の方を向いて、静かに瞳を閉じて。
唇が重なる。
触れるだけのキスに、胸がいっぱいになって、里央は微笑んだ。
「ったく。俺の絵と、同じ顔しやがって」
「志弦さん」
「……クリエイターってのは、結局。好きなものを、理想にかえて、描いちまう。――おまえはやっぱ、俺の理想そのままだったんだなあ」
「ふふ」
諦めるように言いながらも、志弦だって笑っている。
「ただ、一個だけ」
「?」
「おまえ、俺のこといろいろわかったつもりでいるみたいだが。肝心なところ、抜けてるぞ」
なんだろう、と思いぱちぱちと瞬く。
「現ノ最中」
そう。それが彼の正体で。
あの絵のタッチ、見間違えるはずがないのに。
「あれ、本当は“うつつのさなか”って読むんだ」
「え」
里央は目を丸めた。
「どれだけ絵の中に逃げたつもりでも、現実からは逃げられない。そんな意味でつけたのにな。――この現実が、悪いものじゃあなくなっちまった」
「うつつの……さなか?」
ぽつりと呟くと、彼が可笑しそうに目を細める。
「おまえが好いてくれてた歪みも、もう描けないかもな。こりゃあ、おまんまの食い上げだ。――――責任、とってくれるよな?」
そう言って、彼はもう一度顔を近づける。
重ねられた唇は、からかうような彼の声とは裏腹に、ひどく甘かった。