夏色モノクローム
  ◆


「俺の家は、いろいろ窮屈でな。親も悪いヤツらじゃねえんだが――俺は昔から内向的で、後継には向ねえと早々に見切りをつけられてて。お袋が若くして死んだからって、親父のやろう、何年も経たないうちに若い女と再婚して。……そんなだから、実家が居心地悪くてな。
 全寮制の高校に入って、美大に行って――卒業するより先に、そこそこ食えるようになったから、適当にバックレて。母親の実家の家屋、後継もいねえからって、買い取って」

 リビングのソファーでふたり、語り合う。
 ぴっとりとくっついたまま、片手をゆるりと繋ぎ合って。

「……なんつうか、ガキ産ませるために若い女と結婚した親父が、ひどく汚いものに思えてな。親父たち、丁度、俺とお前くらいの年の差だった。だから、よけいに許されないもののように感じた」

 そう言って志弦が目を伏せる。

「……さっき。結局葵に、おまえがいるのばれてさ」
「え?」
「靴。思いっ切り、玄関にそのまま置いてあったし」
「あ」

 それはそうだ。
 どう見ても女もの。どうやら葵も、里央と志弦との間に何かを感じて、先日の誤解を解きに来たようで。

「馬鹿みたいに背中押されたよ。俺がああも感情の起伏を見せる相手は珍しいからって。――結局血だ。両親と同じ道を辿ってるだけ。いっそ諦めて開き直れって」
「ふふっ」
「……葵曰く、ウチの両親、互いにいい歳なのに、いまだになんだかんだ仲いいみたいだ。俺が知ろうとしなかっただけだって言ってよ」
「そうですか」

 懐かしそうに、切なそうに語る志弦を見ていた。
 少し、繋いだ手に力を入れると、彼も目を細めて、親指の腹で撫でてくれる。
 彼の手は指先の皮が固くて、ががさがさしていて。ああ、絵描きの指だなって思う。
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