まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 目が覚めたときからそうではないかと自覚していた。今朝からただの可能性でしかなかったものが腹部の違和感によって確信に変わり、案外素直に受け入れられた。

「ちゃんと話し合いなさい。これはあなただけの問題じゃないわ」

 私たちの関係が契約結婚だと分かっていながらそんな提案をしてくるなんて私には酷なだけだった。

「子供は持つつもりがないとはっきり言われているんです。どんな顔をされるか」
「それは勝手な話よ。子供はひとりじゃできないのだからあの子にも責任があります」

 ひとりで悩んでいても仕方ないのはわかっている。でも一哉さんの思いを聞いてから打ち明ける勇気がなくてなかなか一歩を踏み出せなかった。

「あの子の母親も……一華(いちか)も同じように悩んでた」

 一点を見つめていたら、顔を歪めた女将がぼそっと言い遠い過去を思い出すように微笑んだ。

「夫と一華はずっと昔から恋仲だったのよ」

 女将との婚約話を破談にさせたいがために一哉さんのお父さんが関係をもった。一哉さんは、自分は偶然できて望まれなかった子供なのだと言っていた。

 女将の言葉に頭の中が混乱する私の口から「え」と小さく声が出る。

「私は十九のときに女将修行をするため月島にきた。心細くて何度も家に帰りたいと思ったとき同じ年頃の一華がそばにいてくれて、唯一の心の支えだった」

 初めて聞く女将の過去。

 私は懐かしそうに話す彼女の話を聞くため、重い体をゆっくり動かし状態を起こした。

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