まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「若葉さん、そういう趣味がおありで?」
「は?」

 今度は結んでいた帯が解かれていき固まる私はどうしたらいいか分からない。

 静かに閉まり出した障子の向こうに顔を引きつらせながら悔しそうな笑顔を作るお義母さんのが消えていく。最後にぴしゃりと鳴った音にびくっと肩が上がった。

「一哉さ――」
「結」

 耳元で彼の低い声がして呼ばれた名前にドキッとする。そのまま私の体は宙に浮き、優しく布団に落とされた。

「まだそこにいる。それに悪いのは君だ」

 囁きながら首元に顔をうずめられ、思わず灯篭の明かりに照らされた障子に写る自分たちの姿を見た。

 混乱するあまり、どうしてこんな展開になったのか頭の整理が追い付かない。冷たい目をしているのに優しく触れてくる温かい手にどきっとさせられ、ゆっくり遠のいていく足音を聞きながら何度も重なる唇に心は複雑で戸惑いを隠せなかった。


 翌朝、うっすら開いていた障子の隙間から差し込む日差しで目が覚めたとき隣に一哉さんの姿はもうなかった。

「おはようございます」

 襖を開けるとスーツ姿の一哉さんがいて、時刻はまだ七時を過ぎたばかりなのにもう鞄を手に仕事へ出ようとしているところだった。

「早起きだな」

 ちらりとこちらに目を向けたがすぐにそう言ったきり鏡に向かってネクタイをしめ直す。

 結局昨夜はお義母さんの気配がなくなると正気に戻ったように立ち上がった彼は、少し離して布団を敷き出したのを思い出す。

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