婚約破棄したい影の令嬢は
ギラリとフィリップを睨みつけるライラックの瞳。
小さな口元が開かれて、音を紡ぐ。






「ーーーーディアンテ・アールトン、と申します」






フィリップの喉が小さく鳴った。

あまりの驚きに、声が出なかったフィリップは目を見開いたまま動けない。
周囲も言葉を発する事すら出来ずにディアンテを見つめていた。


「‥‥は」

「‥‥」

「ディ、アンテ‥?」

「そうだよ。アールトン子爵の次女‥‥君も良く知っているだろう?」


クスリと笑ったアルフレッド‥‥辺りは静寂に包まれていた。
いつも地味なドレスを着て、眼鏡と髪で顔を隠していたディアンテの素顔は‥。


「ディアは僕の恩人なんだ‥‥とても昔の話なんだけどね」

「‥っ、‥ぁ」

「どうしたんだい?フィリップ‥顔色が悪いね?」


先程のアルフレッドの言葉をフィリップは思い出していた。


『彼女は少し前まで他の奴の婚約者だったんだ』

ディアンテの少し前の婚約者‥それはフィリップだからだ。

『酷い扱いを受けていた‥いつも暴言を浴びせられて、有りもしない噂を流されて‥‥仕舞いには頭から紅茶を掛けられたこともあったらしい。それに婚約破棄の際も有り得ない辱めを受けたんだ』
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