初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました

得体の知れない何かが (元婚約者視点)

クリスティン様から湖畔の別荘にお誘いされた時は夢じゃないかと思った。

『夏の間ずっと…』そう消え入るような声で言い、恥ずかしそうに笑顔を見せた彼女に胸の鼓動が速まった。


最初に頭に浮かんだのは婚約者のシャルではなくて、上司の顔だった。

シャルは何とかなると思った。
にっこり笑って上手いこと言えば、3ヶ月ぐらい
どうにか出来る。


だが仕事はそうは行かない。
第3騎士隊隊長は難しい男だ。
多分、俺のことを気に食わないやつだと思ってる。
最初に挨拶した時の印象が悪かったんだろう。


「貴様はブラッド様と同じクラスだったか?」

ブラッドというのは騎士団団長の息子で、
アーロン王子の側近だった3バカのひとりだ。

騎士科でずっと同じクラスだった。
侯爵家の嫡男の割に気安い男で、誰にでも対等に接していたが、俺は挨拶ぐらいしかしなかった。
やつは平民女の取り巻きだったからだ。


「同じクラスでしたが、親しくお付き合いはしておりませんでした」

直立して畏まって答えた俺を、隊長はしばらく見て『そうか』とだけ言った。
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