【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)
 その一言だった――立ち話をしていたお母様が一瞬、こちらを向いたのだ。

 しかし、いまのエルモは黒い髪を束ね、エメラルド色の瞳の女性で、昔とは違い質素なワンピースを着ている。

 お母様が自分の娘だと気付くはずがない。

 あなたの娘は婚約破棄後に屋敷を追い出されて、どこかにいってしまったのだ――追い出した本人は、エルモのことなど忘れているに決まっている。

 貴族とはそういうも。



 家の近くを通りぬけ進むと行き交う貴族馬車、商人の荷馬車が増え、レンガで舗装された道に変わっていった。

 もうすぐ、ファーレズの王都に着く。
 
「グルさん、グレちゃん。あと二、三時間で王都に着くわ、気を引き締めなくっちゃ」

「そうだな。城にはいり、すばやく毒草をみつけないと」
 
「いや、みつけなくても毒草はすぐに見つかると思うぞ、グルがアルベルトに変化して、オレを"捕まえた"とあの子のところまで連れていけばいい」

「ゲッ、俺がアルベルトになるのか……ものすごく不本意だが、その方法しかないよな。グレはあの子に会うの嫌じゃないのか?」

 あの子? あ、リリアのことね。

「嫌だけど、シルワ様に頼まれたことだ、任務はしっかりやる。…………あ、もう一、案はつあるぞ……グルが変身したアルベルトが「エルモちゃんを連れてきた」と伝えて城にはいる。まあ、おまえの大、大、大嫌いな男に会うことになるけどな」

 グルはそう言われて嫌がると思ったけど、ニヤリと笑い。

「その方法でいいんじゃないのか? エルモを傷付けたやつに、俺が直々お灸を据えてやる」

「それいいな、オレも参加したい」

 ニシシッと笑い。グルは魔法で、グレは爪で引っ掻き攻撃でと、エルドラッド殿下討伐の話で盛り上がる。

 話はだんだんと噛みつく、魔法で眠らせて裸で外に出す、などなど……となりで話を聞くエルモは驚くことばかり。

「ちょっと、グルさん、グレちゃん物騒だよ。仮にもファーレズ国の王子? 皇太子なんだからね」

「フン、俺の知ったことじゃない!」
「そうだ、そうだ!」

「二人が捕まっちゃうのはやだ」

 と言っても話を聞かない二人は。


「「そこは大丈夫、捕まらない程度にやる」」
 
 
 だそうだ。

「心配しているのに……もう、しらない」
「冗談だから、怒るなよエルモ」

「そうそう、怒らないの」

 三人で和気あいあいと進み、ファーレズ国の王都の門が遠くにみえてきた。
< 142 / 179 >

この作品をシェア

pagetop