怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 話し込んでいてすっかり遅くなってしまった。
 九住さんには先に帰るように電話で伝え、私は一旦会社へ戻ることにした。
 だけど今日は適当に切り上げて早く帰るつもりでいる。
 今後の関係も含めて、家で束縒といろいろ話をしたいから。
 
 会社があるビルの前でタクシーを降りたまでは良かったのだけれど。
 受付があるエントランスが見えた瞬間、驚きのあまりそこで足を止めてしまう。
 
 ほかの社員は退社している時間なのでだれもいないはずなのに、男女ふたりが口論している光景が目に飛び込んできたからだ。


「何度も言いますが、社長は不在なんです!」

「だったらあなたから電話して緊急で呼び出してもらえませんか? 来るまで待ちますよ」

「待たれても困ります!」


 対応しているのは九住さんで、話している相手の男性が憲一朗さんだと気づいた私は、不気味なのと恐怖とで肌がぞわぞわと泡立った。

 聞こえてきた文言から察すると、訪ねてきた憲一朗さんは九住さんから不在だと伝えられても引かずに、私に会わせろとせがんでいるのだろう。


「僕から冬璃さんに連絡しても無理なんです。でも、あなたの電話なら出るでしょう?」

「お引き取りください。騒ぐなら警察を呼びます。野島さんは有名人ですから、警察沙汰は困るんじゃないですか?」


 憲一朗さんは九住さんに食い下がっているだけで、決して常軌を逸しているわけではない。
 だけど、こんな時間に無理やり呼び出せと要求する行動はやっぱりおかしい。

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