ロマンスに道連れ



本当のことを言っただけなのに背中をグーでどつかれた。容赦ない力で来られたのでちゃんと痛いフリしてやった。
相変わらず毛先が一束だけそっぽ向いているのが気になりすぎてついうっかり手を伸ばして修正してあげれば、素直に「やるじゃんコーハイ」とにっこり笑われた。


外は今日も雲ひとつない快晴だった。
自称晴れ女である先輩は外の天気を見て「これわたしのおかげだからね」と自慢げに話している。


「あ、そうだ」

「今度はなんすか」

「ふふふ」

「こっわ」


保健室のある校舎を抜け出して、先輩の言うとおりに日陰の道をたどって人気のなさそうな場所を散策している。
所詮5月なので外はまだ対して暑くもなく過ごしやすいし俺一人なら屋上にでも行って光合成しながら昼寝でもするけど、残念ながら却下だ。
なんでこの人の言うことを素直に聞いているんだと毎度我に返るけれど、結局俺は彼女の言う通りに動いてしまっている。


「璃月クン」

「だから、なんすか」

「ねえ、そろそろ好きになった?」




ああ、出た出た。
本当に厄介なセンパイだ。

俺より一歩先に回ってくるりとこちらに振り返る。
俺のネクタイと違う色のリボンの先が風に揺れている。
他の先輩達よりも短すぎないスカートの下に色気なしに紺色のジャージを履いている姿にはすっかり慣れてしまっている。

へらへら笑って俺を見上げるその顔だけはどう見たって可愛いし、喋らなければめちゃくちゃタイプ。まあ残念ながら性格と色気のなさに効果は半減してるけど。

真っ白な肌な彼女は夏を天敵として一生懸命生きている。一歩外に出たら、太陽を浴びてしまったら。すぐに体調を崩して、でも大好きなアイツのいる保健室にいけるんならいいのかもな。


俺がわざわざ保健室に行く理由はひとつだ。この人の邪魔をする、それだけ。
この人のしっぽ振って恋してる姿なんて死んでも見たくねえし、この人を好きになるなんて、パラレルワールドでもありえない話。



「―――ならねえよ、バァカ」



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