爪先からムスク、指先からフィトンチッド
「あ、あの。薫樹さんの手を見せてもらえませんか?」
「ん?手?いいよ」
いぶかし気な顔つきをしながら薫樹は手を差し出す。骨ばっているが大きくて柔らかい手だ。芳香は指先の匂いを嗅ぐ。(やっぱり……)
「薫樹さんは匂宮かとおもってたけど薫の君なんですね」
「なに?」
「指先から香りがする。それも木の香り。すごくいい匂い」
「そんなはずはない」
薫樹はもう片方の手の匂いを自分で嗅ぎ、顔を左右に振る。
「いえ、本当です」
「うーむ。全く分からない」
ありとあらゆる香りを嗅ぎ分け、再現、創造できる彼の唯一知覚できない香り、それは彼自身の香りだった。愕然としている薫樹に芳香はなんとなく親しみを感じる。
「あ、あの、サンドイッチを買ったんですが一緒に食べませんか?」
「え、あ、ああ。そうするか……」
物思いにふけっている薫樹に声を掛けるとすぐに気持ちを切り替えたようだ。
「よく自分の体臭は分からないというが、まさか僕もそうだったとは」
「指は近いですもん。足と違って。しかもすごくいい匂い」
「いい匂い――か」
「最近足の匂いがひどくないのはきっと薫樹さんの指先からの香りが影響してるんでしょうね」
「――むぅ。シートにもうひと捻り加えないといけないな。――君はかけがえのないひとだな」
芳香は自分が役に立っていることがとても嬉しい。例え短期間の交わりだとしてもボディーシートは形として残るのだ。
13 初めての友達
真菜との昼のランチの頻度が上がると今度は夜、一緒に飲みに行く約束も交わすようになる。一応、自分の匂いを警戒し、テーブル席があり匂いの立ち込めている焼き鳥屋を芳香が選んだ。
店内に入ると甘辛いタレの焦げた匂いが漂っていた。
店員に二人掛けのテーブル席に案内され、生ビールを頼む。あまり人と落ち着いて外食する経験のない芳香がメニューを見て決めあぐねていると真菜が「適当に頼むね」と、てきぱき色んな種類の焼き鳥を頼んだ。
「ありがとう。立花さんってなんでも頼りになるね」
「そっかなあ。ねえねえ、ところで最近どうしたの? なんかお弁当やめたみたいだし、雰囲気も変わった気がする」
「え、そ、そう?」
「ああ、適当に頼んじゃったけど、柏木さん、アレルギー多かったんじゃなかったっけ。平気かなあ」
「あ、うん、実はそのことなんだけど……」
「ん?手?いいよ」
いぶかし気な顔つきをしながら薫樹は手を差し出す。骨ばっているが大きくて柔らかい手だ。芳香は指先の匂いを嗅ぐ。(やっぱり……)
「薫樹さんは匂宮かとおもってたけど薫の君なんですね」
「なに?」
「指先から香りがする。それも木の香り。すごくいい匂い」
「そんなはずはない」
薫樹はもう片方の手の匂いを自分で嗅ぎ、顔を左右に振る。
「いえ、本当です」
「うーむ。全く分からない」
ありとあらゆる香りを嗅ぎ分け、再現、創造できる彼の唯一知覚できない香り、それは彼自身の香りだった。愕然としている薫樹に芳香はなんとなく親しみを感じる。
「あ、あの、サンドイッチを買ったんですが一緒に食べませんか?」
「え、あ、ああ。そうするか……」
物思いにふけっている薫樹に声を掛けるとすぐに気持ちを切り替えたようだ。
「よく自分の体臭は分からないというが、まさか僕もそうだったとは」
「指は近いですもん。足と違って。しかもすごくいい匂い」
「いい匂い――か」
「最近足の匂いがひどくないのはきっと薫樹さんの指先からの香りが影響してるんでしょうね」
「――むぅ。シートにもうひと捻り加えないといけないな。――君はかけがえのないひとだな」
芳香は自分が役に立っていることがとても嬉しい。例え短期間の交わりだとしてもボディーシートは形として残るのだ。
13 初めての友達
真菜との昼のランチの頻度が上がると今度は夜、一緒に飲みに行く約束も交わすようになる。一応、自分の匂いを警戒し、テーブル席があり匂いの立ち込めている焼き鳥屋を芳香が選んだ。
店内に入ると甘辛いタレの焦げた匂いが漂っていた。
店員に二人掛けのテーブル席に案内され、生ビールを頼む。あまり人と落ち着いて外食する経験のない芳香がメニューを見て決めあぐねていると真菜が「適当に頼むね」と、てきぱき色んな種類の焼き鳥を頼んだ。
「ありがとう。立花さんってなんでも頼りになるね」
「そっかなあ。ねえねえ、ところで最近どうしたの? なんかお弁当やめたみたいだし、雰囲気も変わった気がする」
「え、そ、そう?」
「ああ、適当に頼んじゃったけど、柏木さん、アレルギー多かったんじゃなかったっけ。平気かなあ」
「あ、うん、実はそのことなんだけど……」