爪先からムスク、指先からフィトンチッド
以前、経験がないと言っていたがそれにしては、やけに触り慣れていて初めて触れられるのにあんなに気持ちがよかった事が芳香にあらぬ心配をさせる。美月のことや今まで聞いた噂などをごちゃごちゃ考えていると薫樹が寝室に入ってきた。
「遅くなったね。今夜はもう休もう」
「え、あ、はい」
覚悟を決めてきていたのに大人しく寝ようと言われまた芳香は動揺する。(美月さんの事考えてるのかな……)
シーツにするりと滑り込み、薫樹は隅にいる芳香を引き寄せると、自分の方を向かせ「上からだったな」と優しく口づけをする。
「ん……」
キスだけは何度か交わしていて、その度に芳香はこのまま強引に奪ってほしいと願うが薫樹は案外紳士なのだ。
「おやすみ」
「あ、おやすみなさい」
薫樹に腕枕をされ向かい合っているが、しばらくすると芳香はくるりと眠ったまま背を向け、薫樹のてのひらに頬を置き、指先を嗅ぎながら「うーん、いい匂いー」とむにゃむにゃ寝言を言った。
「幸せそうだな」
考え事をしている薫樹に眠気はまだ訪れておらず、芳香が自分の指先の匂いを嬉しそうに嗅いでいる様子に微笑んだ。
「今度逆さまになって眠るのはどうだろうか」
芳香の足の匂いを嗅ぎたいがこの体勢では難しい。試行錯誤が必要だと考えたが、芳香の幸せそうな寝顔を見ると満更でもない。
これまで調香師としてやってきた仕事は数々の成功をおさめ満足しているが、何も施さない自分の指先の香りがこのような効果を発揮したことに薫樹は不思議な感覚を覚える。
「香りには香りだな」
結論が出たので薫樹も安らかな眠りについた。
6 フィトンチッドの効果・2
芳香が目覚めるとベッドは空っぽだったが森の香りが残っている。
「すっごいよく寝た気がする……」
初めて他人と朝まで眠った。昨夜は何もしないで寝ることに、複雑な思いをしばらくしていたが気づくと深い眠りに落ちていて、今、もう朝だ。
薄まり始めた薫樹の残り香を胸いっぱいに吸い込む。真菜が言っていた薫樹の残り香を女子社員が残さず嗅ぐ話を思い出し、芳香も真似る。
「いい匂いだなあ」
しかしこの香りは彼のプライベートの香りで芳香しか知らないと思うと、少しだけ恋人だという実感が沸く。薫樹は家を出る前には必ず自作の香料を身に着ける。
季節や天候によってつけるものが違うので、これが薫樹の香りと言ったものはない。この森の香りだけが彼の持つ香りなのだ。
芳香は四つん這いになり、薫樹が寝ていた辺りに鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。まるで犯人の匂いを追っている警察犬のようにくんくん嗅いでいるところへ薫樹がやってきた。
「おはよ。何してるんだ」
「はっ、あ、おはようございます。ちょ、ちょっとシーツがしわくちゃだなっ、なんて」
慌てて正座し適当に言い訳すると薫樹は微笑んで「そうか、気にしなくていい。お茶を淹れたから起きておいで」と去った。
「あー、やばかったー」
流石に匂いを嗅いでましたとは言えず、軽く寝具を直して起き出す。
伸びをすると身体中が軽く気持ちが良い。彼の香りの効果のすごさに「自分の匂いの香水作ればいいのにな」と芳香は白いシーツを眺めて思った。
7 真菜の秘密・1
薫樹が出張でいない休日を、ちょうど同じく恋人が出掛けているという真菜と一緒に出掛けることにする。
二人は新しくできたシューズショップに向かうことにした。
「とにかく可愛い靴が欲しいなあ」
「遅くなったね。今夜はもう休もう」
「え、あ、はい」
覚悟を決めてきていたのに大人しく寝ようと言われまた芳香は動揺する。(美月さんの事考えてるのかな……)
シーツにするりと滑り込み、薫樹は隅にいる芳香を引き寄せると、自分の方を向かせ「上からだったな」と優しく口づけをする。
「ん……」
キスだけは何度か交わしていて、その度に芳香はこのまま強引に奪ってほしいと願うが薫樹は案外紳士なのだ。
「おやすみ」
「あ、おやすみなさい」
薫樹に腕枕をされ向かい合っているが、しばらくすると芳香はくるりと眠ったまま背を向け、薫樹のてのひらに頬を置き、指先を嗅ぎながら「うーん、いい匂いー」とむにゃむにゃ寝言を言った。
「幸せそうだな」
考え事をしている薫樹に眠気はまだ訪れておらず、芳香が自分の指先の匂いを嬉しそうに嗅いでいる様子に微笑んだ。
「今度逆さまになって眠るのはどうだろうか」
芳香の足の匂いを嗅ぎたいがこの体勢では難しい。試行錯誤が必要だと考えたが、芳香の幸せそうな寝顔を見ると満更でもない。
これまで調香師としてやってきた仕事は数々の成功をおさめ満足しているが、何も施さない自分の指先の香りがこのような効果を発揮したことに薫樹は不思議な感覚を覚える。
「香りには香りだな」
結論が出たので薫樹も安らかな眠りについた。
6 フィトンチッドの効果・2
芳香が目覚めるとベッドは空っぽだったが森の香りが残っている。
「すっごいよく寝た気がする……」
初めて他人と朝まで眠った。昨夜は何もしないで寝ることに、複雑な思いをしばらくしていたが気づくと深い眠りに落ちていて、今、もう朝だ。
薄まり始めた薫樹の残り香を胸いっぱいに吸い込む。真菜が言っていた薫樹の残り香を女子社員が残さず嗅ぐ話を思い出し、芳香も真似る。
「いい匂いだなあ」
しかしこの香りは彼のプライベートの香りで芳香しか知らないと思うと、少しだけ恋人だという実感が沸く。薫樹は家を出る前には必ず自作の香料を身に着ける。
季節や天候によってつけるものが違うので、これが薫樹の香りと言ったものはない。この森の香りだけが彼の持つ香りなのだ。
芳香は四つん這いになり、薫樹が寝ていた辺りに鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。まるで犯人の匂いを追っている警察犬のようにくんくん嗅いでいるところへ薫樹がやってきた。
「おはよ。何してるんだ」
「はっ、あ、おはようございます。ちょ、ちょっとシーツがしわくちゃだなっ、なんて」
慌てて正座し適当に言い訳すると薫樹は微笑んで「そうか、気にしなくていい。お茶を淹れたから起きておいで」と去った。
「あー、やばかったー」
流石に匂いを嗅いでましたとは言えず、軽く寝具を直して起き出す。
伸びをすると身体中が軽く気持ちが良い。彼の香りの効果のすごさに「自分の匂いの香水作ればいいのにな」と芳香は白いシーツを眺めて思った。
7 真菜の秘密・1
薫樹が出張でいない休日を、ちょうど同じく恋人が出掛けているという真菜と一緒に出掛けることにする。
二人は新しくできたシューズショップに向かうことにした。
「とにかく可愛い靴が欲しいなあ」