爪先からムスク、指先からフィトンチッド
立ち上がりキョロキョロとあたりを見まわす彼を見てほくそ笑んで知らんぷりをした。痛がる顔を見て少し興奮する。
イメージが違うということで別れてきた男たちにこっそり肉体的に痛みを与えて悦に入っていた。
そうやって過ごす高校生活はあっという間に終わり、受験も無事終わって地元の大学に入学した。
もう制服はないのでイメージを勝手にもたれることが無くなりほっとする。しばらく男はいいやと思い、女友達と行動することが多くなった。
ある時おしゃべりに花を咲かせていると、誰かが「あたしはどMだから~」と言い始め、それに他の友人たちも賛同し、次々「あたしもなんだー」と言い始めた。真菜は自分にはMの感覚はなかったので黙って聞いていたが、皆の話を聞くうちにどうやらS側だということを自覚する。
「この前さあ、彼氏にちょっと縛っていいかって言われちゃってさあー」
「ええー、SMじゃーん」
「ソフトならいいよねえー」
男の目を気にしないセックスの話はどんどん過激になっていく。共感を得たのは友人の彼氏の感覚だった。
「彼氏がどSでさあー、泣かせようとするんだよねえー」
「やっだー、イジワルゥー」
泣き顔を見ると興奮するという話にふと和也の顔が浮かぶ。あれは『萌え』なのかなと真菜は一人回想に耽っていた。

9 真菜の秘密・3
化粧品会社に就職も決まり、新人歓迎の飲み会に参加した帰りだった。
ほろ酔いで気持ちよく帰っていると和也が歩いている。
「あら、久しぶり春休み?」
「うん。コンビに行くとこ。そっちは飲み会帰りってやつ?」
「和也でっかくなったねー。大学でもサッカーやってるんだっけ? 高1のとき泣いてたの思い出すと感慨深いわねえ」
「なんだよー。先に社会人になったからって大人ぶって」
「ふふっ、まったく男臭くなっちゃってさあ」
アルコールでふらつき、グラッと真菜はよろけた。
「おっと、あぶねえ。そこ溝だぞ」
「あ、サンキュ。いい子いい子」
身体を支えてくれた和也の頬を思わず、つねってしまう。
「あ、い、痛たっ、な、なにすんだよぉ」
「ごめんごめん」
恋人たちにこっそり行ってきた行為をうっかり和也にしてしまい真菜はやばいと思ったが、次の言葉で酔いがさめる。
「子供のころから変わんないなあー。学校行ってる間は大人しそうにしてたのに」
「えっ」
「よく小っちゃい頃お仕置きごっこで尻叩かれたり、つねられたりしたよなあ」
「そ、そうだっけ……」
すっかり忘れていた幼児期のことを思い出す。
今でこそ和也は真菜の背丈を越しているが、小学校に入る前などは真菜の方が頭一つ大きかった。
隣同士で近隣に子供が少なくよくお互いの家を行き来して遊んでいた。
当時流行っていたアニメの影響だろうか。お仕置きごっこと称して和也の小さくて柔らかい尻を叩いたりつねったり、ある時には噛んだりしていたことを思い出した。
そしてその時の和也の表情も。
「そういや、喜んでたじゃん。お尻叩いてやると」
「えっ、変なこと言うなよ」
さっと目を逸らす和也に被虐的な要素があることを真菜はなんとなく勘付く。
自分がS系であることを自覚してから、Mっ気のある男性を探し当てる癖がついていた。いることはいるがどうもMの男は奉仕をしたがるのでそこが真菜の望むものと違っていた。
子供のころからの幼馴染に男としての意識を全くしたことがなかったが、今、ちょっとつついてやる程度の言葉攻めで和也から初々しい態度を見せられ、真菜は興奮し始めている。
「ねえ。今、彼女とかいるの?」
「ん? いない。あんまり、続かないんだ」
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