爪先からムスク、指先からフィトンチッド
上から自分を見下ろすような表情は和也には一切ない。哀願するような顔つきを見せる。
「ごめん、もう、イキそう」
「あ、ん、まだ、だ、めっ」
苦悶する和也の尻を強くつねると、真菜の中で硬度を増し膨張する。
「くあっ、ううぅぅっ」
「はっ、あぁあん、あ、んっ」
「あ、はっ、はっ、ごめっ、出ちゃった……」
「つねられてイクなんて……」
和也が達するときに実は真菜も絶頂感を得ていたが、そのことは黙っておくことにした。
「真菜……。すごく……良かった」
「ん。私も、こんなに良かったの初めて」
口づけを求めてくる和也の髪を撫でながら真菜は不思議と愛情が沸いてくる気がしていた。
「あのさ、こうなったら付き合わない?」
真面目な和也は神妙な口調で言う。
真菜は少し考えて「そうだね。いいかもね」と言いながら次を続ける。
「今度さあ、縛ってもいい?」
「ええっ!? ――い、いいよ」
和也は恥じらいと嬉しさを混同させた表情で承知した。

11 真菜の秘密・5

芳香は真菜がSであるということに驚いた。見た目はフェミニンだが実際は頼もしい姉御肌でリードしてくれる真菜を勿論Mだとも思わないが、そこまでSっ気が強いとも思っていなかった。
「こういうさあ、趣向っていうのかなあ。好き嫌いってことじゃないと思うの。ほんと合う合わないっていうか。今の彼以外に私が合う人ってたぶんいないんじゃないかな。これからもし出会ったとしても、もうその時には和也といろんなことを積み上げたあとだと思うしね」
「はぁー、なんかすごく説得力ある」
「ふふっ、だから兵部さんもきっとそうだよ。どっちかっていうと芳香ちゃんの方がわかんなくない?」
「え? なんで?」
「だって、兵部さんは初めて好きになった人が芳香ちゃんだけど、芳香ちゃんは今まで好きになった人いるでしょ?」
「え、うん、そうだけど」
「匂いのことが解消されたらさあ、芳香ちゃんはもういつだって恋ができちゃう状態じゃない」
「あ、そ、そっかあ」
「だから兵部さんのことより芳香ちゃんの方が実際は心配ってこと」
「うーん。そうかなあ」
「先のことは、わかんないけどね。でも無駄に心配しなくてもいいと思うよ」
「そうだね。ありがと」
「ふふっ」
珈琲をおかわりして店を出ると日が傾き始めていた。
「じゃあ、またね」
「うん。またねー」
真菜と話をしてすっきりした芳香は薫樹の帰りが待ち遠しくなる。
そして今度一緒にニンニクを食べてみたいと思った。

 
12 ルームフレグランスの調香
週末に芳香が薫樹のマンションを訪れるようになってから2ヶ月ほど過ぎたが一緒に眠るだけの朝を迎えている。
ここのところ夜遅くまで自室の研究室にこもっている薫樹は疲労気味だが、芳香に会うとほっとする自分を感じていた。
「さて、今回は天然精油だけ使ってみるか」
何本かの香料を選び出し机に並べる。薫樹が作ろうとしているのは芳香との初夜を彼女が安心して迎えられるためのルームフレグランスだ。
香りのイメージはもうすでに出来上がっている。控えめで奥ゆかしい生真面目な芳香にはリラックスが必要だが、薫樹の指先の香りだけではリラックスし過ぎて眠ってしまう。催淫効果も必要だろう。
芳香のムスクの香りと自分自身のフィトンチッドの香りを考慮して配合を考える。
トップノート(香りの第一印象)が自分の指先なら、ラストノート(残り香)は芳香の爪先だろう。つまりミドルノート(メインの香り)をうまく配合しなければならない。
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