爪先からムスク、指先からフィトンチッド
トップノートは薫樹自身、自覚はできないが森の香りだと芳香が言うので、シルバーファーにクミンを加える。トップノートは30分もすれば消えてしまうので、まずはリラックスと刺激を感じさせることにする。ミドルノートは二時間近く香りを保持する。つまり行為の最中、香り続けているだろう。
クミンの催淫効果を引き継がせるべく、イランイランと安心感を得られるだろうジャスミンを使用することにした。
最後のラストノートはもう芳香の香りだけで薫樹には十分だが、芳香に不満を残さないようにバニラとサンダルウッドを処方する。これで最後まで不安感のない状態をキープできるだろう。
黙々と作業をしていると、ふっと先日食事をした時のことを思い出した。
芳香の手料理を褒めると、彼女はほっとした様子で「よかったぁ」と柴犬のような黒目がちな目を細めて笑んだ。
その笑顔を思い出した瞬間、薫樹は胸がドキリとし、イランイランの雫を多くビーカーに垂らしてしまった。
「あっ、量が倍になってしまったな……」
今まで、このようなミスを犯したことがない。初めて味わう『恋』というものに薫樹は気持ちが温かくなる。
「ふむ」
あっさりとした地味な顔立ちの芳香の顔を思い出す。いないときに彼女を思うことを「悪くない」と、嬉々として作業が捗った。
13 撮影現場
『ボディーシート イン フォレスト』のコマーシャルも第3弾目だ。今回は森の妖精に扮装した野島美月が仕事で汗だくになり疲れ切っているサラリーマンをそのシートで拭いてやるというものだ。
男性タレントは 芸歴は長いが小さな劇団員の、活動場所が主に舞台であるため、このコマーシャルがメジャー進出第1弾となるようだ。
外回りをして髪はぼさぼさ、汗だくでずれた眼鏡を直しながらとぼとぼ歩いているところへ、美月が登場し、森林浴へといざなう。
芳香は真菜にコマーシャルの撮影場所が真菜と薫樹が勤め、自分の前回の職場である会社『銀華堂化粧品』の付近で行われることを聞き、仕事の休憩時間に見に行くことにした。
今の職場は『銀華堂化粧品』から歩いて15分の場所にある。もしかしたら薫樹を見ることが出来るかもしれないと芳香は秘かに期待した。
休憩時間は一時間なので店の自転車を借り、昼食を速やかに済ませて現場に向かうと、もう人だかりが現場を覆い隠して、人の隙間からチラチラ美月が見えるだけだ。
「ああー。すっごい人だなあ。みんなどこから撮影の事知るんだろう」
真菜はいるだろうかと見まわしたが、あまり興味がないと言っていたのでやはりいそうにない。
「薫樹さんはいるのかなあ」
撮影をしている現場から少し離れたビルの陰にスーツ姿の長身の男が見えた。
「あっ、あんなとこにいた!」
どうやら女性記者から取材を受けているようで、メモを取っている女性に薫樹は腕組みをし、眼鏡を直しながら答えている。
記者はメモをとりながら少しずつ薫樹との距離を詰めていき、鼻先を回しながらうっとりした表情で、もはやペンは動いていない。そういった態度に慣れているのだろう薫樹は近づく女性に対して眉一つ動かさない。
「はあ……。薫樹さんっていい匂いのする花みたいだなあ……」
遠目から見ても素敵だと思う反面、女性を惹きつける様子は見ていて辛い。
これで薫樹が嬉しそうに笑顔で対応していたならば、彼のマンションへ訪れる足が遠のくだろうと芳香は考える。
気を取り直して撮影現場を見るともう撮り終わっていたようで、美月はにっこりと取り巻く人たちに笑顔を振りまいている。
「うわー。かっわいいなあー」
クミンの催淫効果を引き継がせるべく、イランイランと安心感を得られるだろうジャスミンを使用することにした。
最後のラストノートはもう芳香の香りだけで薫樹には十分だが、芳香に不満を残さないようにバニラとサンダルウッドを処方する。これで最後まで不安感のない状態をキープできるだろう。
黙々と作業をしていると、ふっと先日食事をした時のことを思い出した。
芳香の手料理を褒めると、彼女はほっとした様子で「よかったぁ」と柴犬のような黒目がちな目を細めて笑んだ。
その笑顔を思い出した瞬間、薫樹は胸がドキリとし、イランイランの雫を多くビーカーに垂らしてしまった。
「あっ、量が倍になってしまったな……」
今まで、このようなミスを犯したことがない。初めて味わう『恋』というものに薫樹は気持ちが温かくなる。
「ふむ」
あっさりとした地味な顔立ちの芳香の顔を思い出す。いないときに彼女を思うことを「悪くない」と、嬉々として作業が捗った。
13 撮影現場
『ボディーシート イン フォレスト』のコマーシャルも第3弾目だ。今回は森の妖精に扮装した野島美月が仕事で汗だくになり疲れ切っているサラリーマンをそのシートで拭いてやるというものだ。
男性タレントは 芸歴は長いが小さな劇団員の、活動場所が主に舞台であるため、このコマーシャルがメジャー進出第1弾となるようだ。
外回りをして髪はぼさぼさ、汗だくでずれた眼鏡を直しながらとぼとぼ歩いているところへ、美月が登場し、森林浴へといざなう。
芳香は真菜にコマーシャルの撮影場所が真菜と薫樹が勤め、自分の前回の職場である会社『銀華堂化粧品』の付近で行われることを聞き、仕事の休憩時間に見に行くことにした。
今の職場は『銀華堂化粧品』から歩いて15分の場所にある。もしかしたら薫樹を見ることが出来るかもしれないと芳香は秘かに期待した。
休憩時間は一時間なので店の自転車を借り、昼食を速やかに済ませて現場に向かうと、もう人だかりが現場を覆い隠して、人の隙間からチラチラ美月が見えるだけだ。
「ああー。すっごい人だなあ。みんなどこから撮影の事知るんだろう」
真菜はいるだろうかと見まわしたが、あまり興味がないと言っていたのでやはりいそうにない。
「薫樹さんはいるのかなあ」
撮影をしている現場から少し離れたビルの陰にスーツ姿の長身の男が見えた。
「あっ、あんなとこにいた!」
どうやら女性記者から取材を受けているようで、メモを取っている女性に薫樹は腕組みをし、眼鏡を直しながら答えている。
記者はメモをとりながら少しずつ薫樹との距離を詰めていき、鼻先を回しながらうっとりした表情で、もはやペンは動いていない。そういった態度に慣れているのだろう薫樹は近づく女性に対して眉一つ動かさない。
「はあ……。薫樹さんっていい匂いのする花みたいだなあ……」
遠目から見ても素敵だと思う反面、女性を惹きつける様子は見ていて辛い。
これで薫樹が嬉しそうに笑顔で対応していたならば、彼のマンションへ訪れる足が遠のくだろうと芳香は考える。
気を取り直して撮影現場を見るともう撮り終わっていたようで、美月はにっこりと取り巻く人たちに笑顔を振りまいている。
「うわー。かっわいいなあー」