爪先からムスク、指先からフィトンチッド
芳香は頭を下げ「は、初めまして。柏木芳香と申します」と挨拶をすると、瑞恵は「まあまあっ! 可愛らしいお嬢さん」とすぐさま近づいて芳香の手を取る。
するっと滑らかでしっとりした手に芳香はびくっとするが、瑞恵の吸い付くような肌が彼女の手にまとわりつく。
「な、なんて美肌……」
父親の触覚がすぐれているということがよくわかる。恐らくこの肌の質感は薫樹の父親にとって最高とみなされたものなのだろう。
「母の瑞恵です。どうぞ、どうぞ。おあがりになって」
薫樹の色の白さは瑞恵から受け継いだものだろうか。顔立ちは薫樹よりももう少し柔らかく、丸い瞳にぽってりとした丸い唇だ。
客間に通されじっと待っていると、和服姿の男性が腰を押さえながらやってきた。
「あたた。お帰り、薫樹」
「ただいま。会ってほしい人を連れてきました」
「は、初めまして。柏木芳香と申します」
瑞恵にしたように同じく名前を告げ、正座を正す。
「私は父の兵部絹紫郎です。薫樹が女性を連れてくる日が来るなんてなあ」
「ほんとですね。薫樹はこだわりが強い子ですからねえ」
絹紫郎と瑞恵は芳香がどんな女性かを、薫樹の結婚相手にふさわしいかなどは全くお構いない様で、連れてきたと言うだけで満足らしい。
父親の絹紫郎と薫樹は顔立ちがよく似ている。眼鏡をかけておらず、着流しの紺の和服が良く似合っていて品よく美しいところがそっくりだ。違いと言えば少し日に焼けていて精悍な雰囲気を持つところと、紫がかった漆黒の絹糸のような艶やかな長い髪を一つに束ねていることだ。自分の父親と同じ人間とは思えないと芳香がぼんやり眺めていると、瑞恵が「どうしましょう」と声をあげた。
「どうかしたの? 母さん。お茶くらい出してくれないかな」
「あらっ、出してなかったわね。ふふふ」
「で、どうしたの」
瑞恵は再度ハッとし慌てて言う。
「今日ってわかってなかったから、何の食事の用意できてないわ」
「うーん。うっかりしていたな……」
「……」
慌てているようだがおっとりとした二人はそれほど動揺しているようには見えないが瑞恵は「困ったわ」を連発している。
そこへ外から男女の声がかかった。
「ただいまー」
「ただいま帰りましたあー」
薫樹の兄、透哉とその妻、鈴音だった。
7 続・兵部家の一族
襖をスッと開け、透哉と鈴音が顔を出す。
するっと滑らかでしっとりした手に芳香はびくっとするが、瑞恵の吸い付くような肌が彼女の手にまとわりつく。
「な、なんて美肌……」
父親の触覚がすぐれているということがよくわかる。恐らくこの肌の質感は薫樹の父親にとって最高とみなされたものなのだろう。
「母の瑞恵です。どうぞ、どうぞ。おあがりになって」
薫樹の色の白さは瑞恵から受け継いだものだろうか。顔立ちは薫樹よりももう少し柔らかく、丸い瞳にぽってりとした丸い唇だ。
客間に通されじっと待っていると、和服姿の男性が腰を押さえながらやってきた。
「あたた。お帰り、薫樹」
「ただいま。会ってほしい人を連れてきました」
「は、初めまして。柏木芳香と申します」
瑞恵にしたように同じく名前を告げ、正座を正す。
「私は父の兵部絹紫郎です。薫樹が女性を連れてくる日が来るなんてなあ」
「ほんとですね。薫樹はこだわりが強い子ですからねえ」
絹紫郎と瑞恵は芳香がどんな女性かを、薫樹の結婚相手にふさわしいかなどは全くお構いない様で、連れてきたと言うだけで満足らしい。
父親の絹紫郎と薫樹は顔立ちがよく似ている。眼鏡をかけておらず、着流しの紺の和服が良く似合っていて品よく美しいところがそっくりだ。違いと言えば少し日に焼けていて精悍な雰囲気を持つところと、紫がかった漆黒の絹糸のような艶やかな長い髪を一つに束ねていることだ。自分の父親と同じ人間とは思えないと芳香がぼんやり眺めていると、瑞恵が「どうしましょう」と声をあげた。
「どうかしたの? 母さん。お茶くらい出してくれないかな」
「あらっ、出してなかったわね。ふふふ」
「で、どうしたの」
瑞恵は再度ハッとし慌てて言う。
「今日ってわかってなかったから、何の食事の用意できてないわ」
「うーん。うっかりしていたな……」
「……」
慌てているようだがおっとりとした二人はそれほど動揺しているようには見えないが瑞恵は「困ったわ」を連発している。
そこへ外から男女の声がかかった。
「ただいまー」
「ただいま帰りましたあー」
薫樹の兄、透哉とその妻、鈴音だった。
7 続・兵部家の一族
襖をスッと開け、透哉と鈴音が顔を出す。