大嫌いの先にあるもの【番外編】
夜8時。待ち合わせたホテルのバーに行くと、チャコールグレーのスーツを着た男が指定したカウンター席に座っていた。パパ活アプリで見つけた相手だ。寂しくて堪らない夜、16才年上の男性とお酒を飲むようになった。

大抵は一夜限りの付き合い。
黒須の前では絶対に着ない胸元の大きく開いた黒いワンピースを着て、厚めの化粧をして男に会う。

出会う男性はみんな優しい。
叶わぬ恋に悩む私の愚痴をきいてくれて、アドバイスもくれるし、甘えさせてくれる。黒須としてみたい事を私は一夜限りの男の人にする。広い肩に顔を埋めたり、腕を組んだり、肩を抱いてもらったり……。

今夜も甘えさせてもらおう。

カウンター席に足を向けた時、バッグの中のスマホが鳴った。着信表示を見て胸が締め付けられる。また黒須だ。きっと昼間、研究室に行かなかったから、かけて来たんだ。

なんで黒須なのよ。
黒須の事を忘れたいからこんな事をしているのに。

無視しよう。
バッグにスマホを仕舞った瞬間、誰かに腕を掴まれた。

「どうして電話に出ないんだ?」
すぐ側でした低音の声に心臓が縮んだ。

キリっとした眉に目鼻立ちの整った男の顔が近くにあった。

黒須だ。

大学で見たのとは違う、黒スーツ姿の黒須からは大人の色香が漂っている。どうしてこの男はこんなに魅力的なんだろう。目にする度に私は恋をしている。

これ以上、好きになりたくないのに。
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