大嫌いの先にあるもの【番外編】
「また美香ちゃんの事でしょ。美香ちゃんの初恋の話?それとも今、美香ちゃんが欲しい物とか?」
いつものように美香ちゃんの名前を出して誤魔化した。

「初恋の話も、美香が欲しい物も知ってるよ」
黒須が口の端を上げて薄く笑った。

「じゃあ、わかった。あの話だ。美香ちゃんが高校の時、片思いしていた時の話だ……」
食いつきそうな話題だと思ったのに、黒須は否定するように首を振った。

「僕が聞きたいのは美香の事じゃない。春音の事だ」
二重の切れ長の目がまっすぐにこっちを向く。逃がさないと言っているみたいだった。

今夜は美香ちゃんの事では誤魔化せないようだ。

「私の事?」
黒須が作ったスペースに腰を下ろし、平然とした態度を心がけ、足を組んだ。

「そう。いつも春音の話をしようとすると、美香の話とすり替えるよね。どうしてだい?」
「どうしてって……黒須が美香ちゃんの事を沢山知りたいと思うから」
「それだけ?」
じっと見つめられ頬が熱い。

「他に何があるの?」
「別に。ちょっと気になったから。実はさ、相沢が面白い事を言ったんだよ」
黒須が腕を組んだ姿勢でソファの肘宛て部分に寄り掛かった。何でもない仕草が絵になる。

「何?」
黒い瞳が不思議そうにこっちを向く。
カッコいいから見ていたなんて、口が裂けても言えない。

「なんかこの部屋、落ち着かないと思って見てたの。よくここで生活できるね」
「家をこんな風に出来ないからホテルにいるんだよ」
「美香ちゃん、綺麗好きだもんね」
「相沢の話に戻したいんだが」
「どうぞ。Blue&Devilのマネージャーの相沢さんだよね?」
「そう。その相沢。彼は男女の機微をよくわかっていてね。春音が僕の事を避けるのは僕の事が嫌いか、僕の事を好きで堪らないかのどっちかだって言うんだよ」

カッと顔が熱くなる。
好きで堪らないなんて、なんて事を黒須に吹き込むのよ。
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