本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
「弓部大動脈人工血管置換術を行いました。ここからここにかけて乖離が見られたので人工血管に置き換えた、ということです。今のところ経過は順調です。ICUでひと晩経過を見て、問題がなければ病棟に移ります」

胸部の激痛を訴えて救急搬送された六十代の女性患者は、大動脈解離――つまり心臓から全身へと血液を送る重要な血管の内壁がはがれるように裂けていた。

大出血を起こしていたら命を落とした可能性が高いが、幸い血管壁は破れていなかったので助かった。

人工血管に取り換えると簡単に言っても実際は五時間ほどかかる大手術で、それを修平は三時間で終わらせた。

「なにかご質問は?」

最後にそう問いかけた修平に、患者の夫と三十代くらいの娘は困り顔を見合わせた。

数秒待ったがなにも言わないので質問はないとみなし、修平は席を立った。

「後のことは看護師からお話します。では私はこれで」

処置室に通じているドアを開けたら、後ろに患者の娘の声がしたような気がしたが、父親と話しているのだろうと思い修平は足を止めなかった。
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