本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
「これもらってください。私の連絡先です。私、奥さんがいてもいいですよ。今度お食事に――」

「いらない。たとえ妻がいなくても君に興味はない。俺の指示はどうした? 早くやれ」

生死にかかわる病に侵された患者を幸せだなどと言う女は嫌いだと突き放したいところだが、看護師不足の中、傷つけて辞職されても困るので我慢した。

それでも修平の冷たい態度に十分にショックを受けた様子で、「すみません」と謝る声が震えていた。

救急救命センターでの業務を終えて自動ドアから外来ロビーへ通じている連絡通路に出ると、追ってきた誰かに「先生」と呼び止められた。

まだ諦めないのかと嫌悪感を眉間に表して振り向いたが、そこにいたのは別の女性看護師だった。

杉浦香奈。普段、外科外来を担当している彼女は、救急救命センターの看護師不足で応援を頼まれてここにいる。

大動脈解離の患者の家族に術後の説明をした時、修平の隣のデスクで話した内容をパソコンに入力していたのも香奈だった。

彼女は修平が部屋を出た後、あの家族に退院までの流れや入院手続きに関して説明していたはずである。

相手が香奈だとわかって修平は眉間の皺を解いた。
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