本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
台所の玉暖簾をくぐると真琴より十センチほど小柄で細身の母が夕食を作っていて、大きな土鍋がぐつぐつと音を立てだし醤油の香りがした。

家族の退勤時間は日によってバラバラで、今日は母が一番早く帰ってきていた。

「お母さんただいま。手伝うことある?」

振り向いた母が眼鏡越しに、真琴と同じ奥二重の目を細める。

「お帰り。もうすぐできるよ。今夜は鴨鍋ね」

四月中旬はまだ寒い日もあり、調理に手間もかからないため鍋物を夕食にすることが多い。

母はガスコンロの火を弱めつつ、お玉の先を居間の方に向けた。

「泉にカセットコンロ出すように言って」

「えっ、お兄ちゃんいるの?」

明日の仕込み作業があるので、兄は父と一緒に店の調理場にいると思っていた。

いつの間に帰っていたのかと驚きつつ居間に入れば、部屋着姿の兄がテレビを見ながら日焼けした茶色のソファに寝そべっていた。

この居間は十五畳の絨毯敷きの洋間と八畳の和室の続き部屋で、家族四人が食事をしたりテレビを見たりする。
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