双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 どんな衝撃にも対応しなければと気負うがために、どうにもネガティブな気持ちに引っ張られていた。
 呼吸を整え、精神統一をしていたら、雄吾さんがスッと手を繋ぐ。
「僕がついてる。ひとりで気負わなくていいよ」
 心が解れる柔らかな声と笑顔に、私は「うん」と言って頷いた。
 時刻は午後三時ちょうど。私たちは目で合図をし合って、足を踏み出す。
 雄吾さんが玄関に入るのに続いて、私も遠慮がちに敷居をまたぐ。
「ただいま。彼女を連れてきたよ」
 雄吾さんの声かけで、廊下の奥からお母様らしき女性がやってきた。
 線の細い身体と綺麗に結われた髪、普段から自然と上がっている口角。どれをとっても、上品で淑女という単語がふさわしい方だ。
「はじめまして。雄吾の母の仁美と申します」
「はじめまして。古関春奈と申します」
 早口にならないよう、ちゃんと顔を見て。
 心の中でそう唱えながら、どうにか及第点のお辞儀をする。
「春奈さん、中へどうぞ」
「はい。おじゃまいたします」
 お母様が背を向けた瞬間、気づかれない程度に小さな息を吐く。跳ね回る心臓を落ち着けつつ、靴を揃えて奥へ向かった。
 長い廊下はこの家が広いことを物語る。手入れの行き届いた綺麗な床の上を歩きながら、リビングらしき部屋へ案内された。
 コの字に置かれた高級そうなソファには、お父様と思われる男性が腰をかけている。
 雄吾さんとその男性が軽い雑談を交わしているのを聞き、やはりお父様で間違いないとわかった私は、タイミングを見て頭を下げる。
「こんにちは。古関春奈と申します。本日はお時間をいただきましてありがとうございます」
 上体を倒したまま、お父様の反応を待っていると、予想外に穏やかな口調で言われる。
「まあ顔を上げて、そちらに座って」
 示されたふたりがけのソファに、雄吾さんが私を先導して先に座る。私も続いて一礼してから彼の隣に腰を下ろした。
 対角にいるお父様に身体が向くようにして背筋を伸ばす。
 さっきは思いの外、優しく声をかけられたけれど......。やっぱり、こうして向き合っていると、まるで面接みたいな緊張感。意図せずとも手に汗を握り、心臓が飛び跳ねる。
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