双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 ゆったりした時間どころか、私の時間は完全に止まった感覚に陥った。驚きのあまり固まる。瞬きも、呼吸さえも一瞬忘れていたかもしれない。
 数秒間、言葉を発せず硬直していた。でも私は仰天しながら反面納得もしていた。
 彼の告白は真実だ。むしろ、そういう肩書きだと知ってしっくりくる。
 話し方、目の合わせ方、笑い方でさえもなにか特別なものを持った人だと本能で感じていたかもしれない。だって、私の瞳には彼が輝いて映っていた。今もそう。
 なにか〝特別〟だと、直感していた――?
「お待たせいたしました。キリマンジャロとカフェラテです」
 白いシャツに黒のショート丈のカフェエプロンをつけたスタッフが、にこやかにカップをテーブルに置いていく。丁寧に提供されたカフェラテは、カップに並々と注がれていた。ラテアートだ。
 ここcafe soggiornoでは、カフェラテをオーダーするとラテアートを施してくれると知っていた。
 表面張力で揺れているカフェラテには、カップの中でミルクの層が左右に広がっていて、中央には縦に小さなハートがふたつ並んでいる。クレマと呼ばれるエスプレッソの最上層に浮かび上がるブラウン色の泡と、ミルクの白色のコントラストがとても美しい。
 私はラテアートを穴が開くほど見つめ続ける。
「ウイングチューリップだね。綺麗だ」
 心の中の声と楢崎さんの声が重なった。私はカップから視線を上げ、楢崎さんを見る。ごく自然に模様の名称を言った彼に、感嘆の息が漏れた。
「楢崎さんが今教えてくださった肩書き――疑う余地もありませんね」
 なにもかもが完璧すぎて。
 私の反応に、彼は一瞬止まってその後手の甲で口元を隠して笑い出す。
「ははっ。疑われそうになってたの? 僕」
 少し砕けた雰囲気で楽しげに肩を揺らすから、私はそんなにおかしなことを言ったかなと内心狼狽えた。
「まあでも、そうか。そうだよな......逆の立場になったらって考えたら」
 楢崎さんは視線をテーブルに流し、どこか心悲しい表情と声音でぽつりと言った。
 こんなふうに誰かに素性を明かすのはあまりないのだろうか。大抵の人ならやっぱりびっくりはすると思う。事実なのかと疑うかどうかはわからないけれど。
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