双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 誕生日祝いとわかれば、遠慮なくごちそうしてもらおう。姉弟だから大体の食べ物の嗜好はわかっているし、シェアもお願いしやすい。
 私はメニューブックを捲りながら言う。
「テラス席、せっかくなのに曇ってるね。でもおかげで気温的には過ごしやすいかな」
「三日後くらいからずっと雨だしな。しばらくこういう席はお預けだな」
 そして私たちはオーダーを済ませ、近況を報告し合う。
「最近どうなの? やっぱり銀行員って忙しい?」
「まあまあ。でもどの仕事も忙しいし大変だろ。人間関係でも特に悩まずに済んでるよ。俺、昔から処世術うまいほうだし」
「自分で言う~? ま、人当たりいいのは事実だけどさ」
 グラスの水を口に含み、顔を元に戻す。なんだかやたらと観察されている気がして、私は眉間に皺を寄せた。
「え? なに?」
「なんか雰囲気変わった」
「変わったって、どんなふうに? 別に服とかも同じだと思うけど」
 自分の格好を見ながら首を傾げる。念入りにメイクする時間もなかったし、そもそも海斗との待ち合わせでそこまでしないし。強いていうなら、少し痩せたかな。仕事で受け持ちの担当が増えて、結構歩き回っているから。
 再び喉を潤そうとグラスを口元に持っていった時、海斗が急に私を指さした。
「わかった。男だ」
 そのひとことに、間髪容れずむせ込んだ。海斗が飽きれ顔で返す。
「わかりやすい動揺の仕方するなよ」
「ご、ごめん」
「へえ。でもよかったじゃん。ハルももう二十代も後半になったし、仕事が慣れてくると刺激もなくなってくるだろうし」
「そんなことはないけど。仕事に慣れた部分もあるけど、やっぱり大変だもん。でもまあその、今度紹介する」
 気持ちが落ち着かなくてグラスを両手で持ち、水面を見つめたまま小声で言った。すると、思いもよらない態度を取られる。
「俺はいい。曖昧な関係の人とわざわざ挨拶交わしたくない」
 海斗は手のひらをこちらに見せ、瞼を下ろして首を横に振った。
 さすがに私もムッときて、グラスをコン!とテーブルに置くなりテーブルに身を乗り出す。
「ちょっと。そういう言い方はないんじゃない?」
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