双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 今さら間接キスがどうのこうのと騒ぐわけじゃないけれど、ちょっとこの流れでは受け取れない。心臓がうるさすぎて、飲もうとしたカフェラテだってこぼしそうだもの。
「それにしても雄吾さん。詳しくないなんて嘘。有名な著名人についてほとんどしっかり頭に入ってた」
 心を落ち着けるべく、とりとめのない話題を出す。
 さっき館内の展示物や書物を見ていた時、彼は私みたいに首を傾げるどころか、熱心に頷きながら観覧していたもの。
 私の指摘に、雄吾さんは苦笑交じりに言う。
「んー、案外記憶に残ってるものだなあと自分でも驚いた」
 謙遜することもなく、さらりと肯定されても、決して卑屈な気持ちにはならなかった。むしろ、彼に惹かれた理由のひとつだし、改めて感嘆しただけ。
「やっぱり博識だなあ。雄吾さん、コーヒーや建築物、文学まで。プライベートで自然とそういうところが垣間見えるんだから、オフィスでは敏腕で社内だけでなく取引先からも頼りにされていそう。私とはやっぱり違う」
 比較対象はどうしても自分になるから、雄吾さんとの歴然としたスペックの差がちょっぴり不甲斐ない。
「そんなことは」
「だからまずは視野を広げることかなって今日つくづく感じたし、もっと積極的になろうと思ったの。いろんな場所に行って、苦手意識を捨てて飛び込んでみたりして」
 彼は大企業ですでに上に立つ人間なのだから、些細な部分でも違いを感じるのは仕方がない。それを僻んだり、やっかむ必要もない。
 雄吾さんはそれだけの努力をこれまで重ねてきただけのこと。
 どれだけ実家が立派で有名でも、人脈や知識や信頼は自動的に得られるものではないもの。むしろ、私には想像もできない環境で、プレッシャーの中きっとすごく頑張ってきたのだと思う。
 私はそういう雄吾さんを人として尊敬し、少しでも見習って自分を磨いていけたらいいなと密かな目標を抱いているのだ。
 雄吾さんが唖然としているのを見て、慌てて補足する。
「あっ、違うの。べつにそれに付き合ってもらおうとはしてないから!」
 つい今後の目標宣言をしてしまった。もしかしたら、なにを大袈裟なことをとびっくりしているのかも。もしくは、それに丸きり付き合わされるとでも思ったのだと考えて否定したんだけど。
 雄吾さんは手にしていたホットドックをお皿に戻し、上目でこちらを見た。
「そうなの?」
「えっ」
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