双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
「ちなみに不躾な質問とは思いますが、彼のご両親へのご挨拶は済んでいらっしゃいますか?」
「いいえ」
 ふるふると首を横に振って即答したら、彼女の表情がわずかに変化した。腑に落ちたとでも言わんばかりに、ひとつ息をついてつぶやく。
「なるほど。やっぱりそうですか」
「やっぱり?」
「普通、家が決めた縁談なら長男から話を進めますよね。でも今回、お兄様も未婚でいらっしゃるのに尚吾さんに話がいっています。おそらく、彼は恋人がいるお兄様の代わりに縁談を受けたのかと」
 え? 尚吾さんの縁談が、もともと雄吾さんに持ってこられたもの......?
「そういう人なんです。尚吾さんって仕事熱心でドライなところがあるから。私はそんな彼をずっと見てきたので……あ。決して古関さんを糾弾する意図はありません。ただ本当のことを教えていただきたくて」
「あ、あの。そもそも本当なんですか? 縁談って」
「ええ。お相手は創業百年を越える樫山フードのご令嬢です」
 宇田川さんは言い終えると美しい所作でコーヒーを口に含む。私は彼女を茫然と瞳に映し、記憶を遡る。
〝樫山フード〟? それって、あの菓子舗かしやまの――。
 尋常じゃないほど心臓が騒ぎ立てる。
 私はなんとかかすれ声を絞り出して尋ねた。
「その相手の方のお名前は、ご存じで......?」
「樫山果乃子さんという方ですけれど」
 宇田川さんが発した名前に、今にも胸がちぎれそうになる。
 点と点が繋がってしまった。
 手が冷たい。めまいを起こしそうなのをどうにか堪えて、膝の上で拳を握った。
「それでは。お時間をいただきましてありがとうございました。私はこれで失礼します。支払いは済ませていきますので」
 宇田川さんは最後まで丁寧に挨拶をして去っていく。
 その後、十数分間、私は席から動かずにいた。コーヒーをひと口も飲まずに、ふらつく足取りでどうにかカフェを後にした。
 帰りの電車に揺られ、おもむろにスマートフォンを取り出す。
 雄吾さんからの連絡はまだない。当然だ。彼は今日から四日間、九州へ行くと言っていたから忙しいはず。
 はっきりさせないと。でも、その先の着地点ってどこ? ああ......考えるのが苦しい。具合が悪い。
 そうして私は週末を、ずっと塞ぎ込んで過ごしていた。
 雄吾さんとはメッセージのやりとりはした。
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