双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 何食わぬ顔で明るい文面で返事をして変わりない自分を演じ、実際は悩みに悩んで寝食も忘れるほど。
 けれども、陽は昇り、新しい一日はやってくる。
 月曜日を迎え、通常通りに仕事に勤しむ。雑念を取り払うべく、いつも以上に集中していたら、あっという間に定時を迎えた。
 どうしよう。お腹が空かない。
 朝も昼も、さすがになにか口に入れなければ元気も出ないと鼓舞したものの、身体が食事を受け付けなくなっていた。
 オフィスを出たのは六時過ぎ。
 気を紛らわすのにショッピングもいいなと考えたけれど、なにせ体調がよくない。仕方なく私はまっすぐ家路につく。
 雄吾さんからは昼過ぎに【今日の夜に東京に帰る予定】と連絡があった。
 私は急く気持ちを懸命に抑えて、彼に会う前までに状況と心の整理をする必要があると自分に言い聞かせていた。
 今回の件は、単純に雄吾さんに縁談が舞い込んできたというだけならまだよかったかもしれない。現実はもっと複雑で、しかもほかの人にまで影響を及ぼしてしまっている。
 それもあり、私はまだ頭の中が混乱していた。
 まず弟の尚吾さんには自由になってもらわなければ。宇田川さんの話だと、彼は雄吾さんをかばって名乗りをあげたと言っていた。
 宇田川さんがそれを切に願って、わざわざ私を探し当ててまで行動したのは、尚吾さんへ特別な感情を抱いているからだと感じている。
 彼女の気持ちを考えたら、いの一番に尚吾さんを解放してあげなくちゃ。
 尚吾さんが縁談を辞退した後は、当初の予定通り、雄吾さんに話が戻る可能性がある。そうなった時、どんな答えを出すかは彼次第だ。
 そもそも今回の件――尚吾さんが代わりに縁談を受けるというのだって、雄吾さんが直接お願いしたのか、それとも知らないところでそうなっていたのかも定かではない。
 どちらにせよ、私に選択権はない。でも私は......。
 肩にかけていたバッグの紐をぎゅうっと握る。自宅アパートに着いたのは約一時間後の午後七時半。
 手洗いうがいを済ませたら、まずリビングでひと息つく。目を閉じて数分後、心を決めてバッグからスマートフォンを取り出した。
 この時間なら東京にはもういるかな。タイミングが合わなかったら、その時はその時。
 私は雄吾さんの名前をタップして発信する。耳にスマートフォンを当てて、数コール鳴ったところで音が途切れた。
『もしもし』
 何気ない第一声が、今は胸に切なく響く。
 この声を、日常を、私はやっぱり簡単には手放せない。
 私は平静を装って、若干大げさに明るく振る舞う。
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