双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 彼はあれだけいろいろとあったはずなのに、険悪な雰囲気を一切出さずに相好を崩した。
「いえ。雄吾さんのほうこそ」
 内心驚いた私は、慌ててソファから立ち上がって答えた。
「春奈ならきっと早く来てると思ったから」
 彼はさらりと言って、「移動しよう」とエレベーターホールに足を向けた。私は一定の距離を取り、彼の背中を追いながら動揺を落ち着ける。
 さっきの待ち合わせの瞬間、まるで過去に戻ったみたいだった。まだ心臓がドキドキいっている。
 こっそり胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。エレベーターホールに着いた時には少し落ち着いて、私たちは無言のままエレベーターに乗った。
 行き先は最上階。雄吾さんがドアを開けていてくれて、私は先にエレベーターを降りる。そして、彼のエスコートでレストランへ入店するなり私は肩を窄めた。
 ロビーとは真逆で、壁やフロアがシックな色合いで、落ち着いた照明が上質な空間を醸し出している。高級感が溢れ出ていて、思わず足が竦むほどだ。
「お待ちしておりました。ご案内いたします」
 肩身が狭いと思っている間にも、雄吾さんはスタッフと話をして席へと案内される。私は転ばないように先を歩く雄吾さんについていくのがやっと。
「こちらです」
 そうして案内された先は、窓から夜景と海が望める最高のロケーションの部屋だった。
 圧倒されるまもなくスタッフに椅子を引かれ、とりあえず着席する。
 海を一望できてこんなに広い個室って贅沢すぎる。もしかしてここはVIPルームにというやつなのでは......。
 テーブルの上にセッティングされたカトラリーひとつとっても、曇りひとつ見当たらず綺麗に磨かれているし、寸分違わずきっちりと等間隔で並んでいる。
 コース料理なんて馴染みのないものを、さらには雄吾さんを前にしてちゃんとできる自信がない。
 落としていた視線を少しだけ上げてみると、違和感に気づいた。
「え? 席が四つ......?」
 落ち着いてテーブル全体を見てみると、用意されているカトラリーのほかに、ふたり分多くセットされている。
「ごめん。今日は同席をお願いしている人がいる」
 そう説明する雄吾さんは私の隣の席に着席した。
「同席って」
 突拍子のない発言に胸がざわついた。
 まったく予想できない。ご両親ではないよね? じゃあ、誰? 弁護士とか......。
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