秘め事は社長室で
怒鳴った健は、今度は眉を下げると悲痛な表情を浮かべて私に縋った。
「一緒に……」
呟いて、あ、と思う。
社長のことだ。それ以外に考えられなかった。というか。
「なんで健がそんなことまで知ってるの? まさか、最近尾けてたの、健?」
「それは今どうでもいいだろ! 俺が聞きたいのは桃に近づく男のことで、あれは誰なんだよ!」
「どうでもよくない!」
一番重要だろうが! という気持ちを込めてピシャリとやっつける。
眉を釣りあげた私に、健はびくりと体を震わせ、声を詰まらせた。
健がここ最近の視線の主だとすれば、合点が行く。
職場までは教えたことがなかったけれど、家は当然知ってるし、きっとそこから尾けてきたのだろう。……そう思うと、怒りの奥底にじわりと気味の悪さも滲んだ。
「あのさ」
あんた、自分が何してるか分かってる? そう吐き出そうとした言葉は、緊迫した空気に似つかわしくない、控えめなノック音に先を越されてしまった。
「あの、大きな音がしましたけど大丈夫ですか……え!?」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、私に電話をくれた受付の女の子で、彼女は私たちを見ると目を丸くして驚愕の表情を浮かべる。
「ちょっと貴方、何してるんですか!?」
そして、怒った顔で声を張り上げると、私から健を引き剥がそうとこちらに手を伸ばしてきた。そこで、そういえば肩を掴まれていたんだったと思い出す。
「騒いじゃってごめんなさい、大丈夫ですよ」
ついついヒートアップしてしまった。
隣の応接室に聞こえてたりしたかな……まずいな。
大きな音がして、って言ってたもんな。と苦く思いながら、受付の子を制し、健を見る。
「離して」