秘め事は社長室で
「……このテーブル」
しなやかな指先が、美しい木目をなぞる。
「ウチの製品なんだよ。他の家具も、全部」
「え……」
「いくつかは特注品で。こだわりがあるんだなと思ったから、一度は見ておきたくて」
「……」
居た堪れなくて思わず黙ってしまう。
「……すみません」
「何が?」
僅かに眉を顰めて、本気で怪訝そうな顔だ。でも、社長は取引先の一つに過ぎない小さなカフェの情報まで常に頭に入れていて、かたや私は浮かれて……浮かれて?
自分で自分の思考に違和感を抱く。
浮かれて、いたのか。社長とのお昼に。ほんの少しだけ非日常的なこの時間が、ちょっと、楽しいなんて思ってしまって。だから、男友達を相手するような気楽さでうっかり軽口をたたいてしまって。
自覚すると、猛烈に恥ずかしい。
何、いつの間に懐いちゃってるの私。
顔が赤くなっている気がする。両手で覆って呻いてしまいたいが、まさかそんなこと出来るわけもなく。結果、苦薬を飲み込んだような顔になる私を、やっぱり目の前の麗人は訝しんでいたけれど。
やがて薄い唇がふっと緩んで、静謐な瞳にどこか意地悪な色が滲んだ。
「あとはまあ、あんたみたいな女が喜びそうだろ。こういう店」
想像通りだったな。付け足された言葉に、はしゃいでいたことまですっかり見抜かれてしまったようで、限界だった。
ぐう。喉の奥から、呻きとも唸りともつかない声を押し出し、愉しげな視線から逃れるべく顔を俯かせる。
「……どういう意味ですか、それ」
結局、否定も肯定もできず、そんな恨み言を呟くのが精いっぱいだった。
「社長、お先に失礼しますね」
時刻は夜八時。ひょっこりと社長室に顔を出した私に、社長は壁掛け時計に視線を走らせた。