秘め事は社長室で
トスン。鈍色が空を切り裂いて視界の端に突き刺さり、少し遅れて頬に熱が溜まり始める。暗い室内でも薄気味悪く閃く煌めきが、ナイフの鋭い光であることを理解するのに、少し時間がかかった。次々と襲い掛かる不条理に、頭が追いつかなくて。
「健……」
ひくりと喉が引き攣って、渇いた掠れ声が出る。
「ねえ、本当に落ち着いてよ。洒落にならないから、こんなの」
「落ち着いてるよ」
「じゃあどいて」
「……」
健は薄く笑むだけだ。その瞳は凪いでいるように見えて、その実どろりと濁っている。
「なあ桃、どうして俺たちが別れたか、覚えてる?」
「え?」
突然の質問に不審がる私を、聞き分けのない子供を見るような苦笑が見下ろしてくる。
「仕事に集中したいからって、そう言ったんだよ。真面目だよね、桃は。そういうところも好きだけど」
ああ、そうだ。そういえばそんな言い訳をしたんだっけ。
実際はそうじゃない。束縛や嫉妬が激しくて、連絡をすぐに返せないだけで浮気を疑ってきたり、仕事で関わる人間の一人ひとりまで知りたがったり、そういう部分が仕事の支障になっていたことも事実だけど、とにかくその女々しさが、私には無理だった。
自立して欲しかった。依存されるのが嫌で、でもそのまま伝えることは憚られて、仕事を盾に別れ話を切り出したんだった。
「桃、あの男にまだ付き纏われてるんだろ」
「は?」
「調べたんだ。桃が大事にする仕事のこと、俺もちゃんと知っておこうと思って。……びっくりした。社長だったんだね、あの人」
「!」
サッと血の気が引いていく。