秘め事は社長室で
当然、会社のホームページを閲覧されればすぐに知られる事実だ。それは分かっていたけど、まさかわざわざ調べにくるなんて思ってもみなかったせいで油断した。
緊張に強張る私をどう受け取ったのか、陰った瞳が労わるように伏せられる。
「誑かされたなんて誤解してごめんな。断れなかったんだよな、自分の会社の社長だもんな」
「何言って……」
「大丈夫、俺があんな男からはすぐに救ってやるから」
あやすように頬ずりされてゾッとする。
ただひたすらに純粋な恐怖だった。理解のできない生き物に対する。付き合っている頃から時々被害妄想の気はあったけれど、こんなに話の通じない男では無かったのに。
「あの人は本当に、そういう関係じゃないってば」
「そういう関係じゃないのに、二人きりでお昼ご飯食べるんだ」
お昼、って。
社長とお昼を、それも社外の人に見られる場所で食べたのは、今日が初めてだ。
「また、尾けてたの?」
声が震える。健は困ったように笑った。
「ほんとに偶然。声かけたかったけど、男に睨まれたからやめといた。すっかり桃を自分のものみたいな顔して、ムカつくよねあいつ」
全然、気が付かなかった。健が外を通ったことも、それに社長が気付いていたことも。
「お願いだから、社長には手を出さないで」
「……」
「社長のことは上司として尊敬してる。それ以上でも以下でもないし、業務上関りが多いだけ。私は何も困ってない」
目を逸らしたら負けだ。そう思ってきつと睨み上げる。
すると、それまでどこか幸せそうに、嬉しそうに緩んでいた瞳から──一切の感情が抜け落ちた。
「……そっか」