秘め事は社長室で


「怪我とかしてませんか!?」


刹那、黒曜石の瞳が激昂した。


「人の心配をする前に自分の心配をしろ!」


動揺する私の声をかき消す、大きな声だった。

怒鳴るような勢いで叱られたのは初めてで、びくりと体が揺れてしまう。そんな私に社長は微かに後悔の色を見せてから、毀れ物に触れるような繊細さで私の頬に手を伸ばした。

優しくて、温かい指先。健に触られたところはあんなに気持ち悪かったのに、社長の温度は全然嫌じゃない。


「悪い。……でも、怪我してんのはあんたなんだって」
「あ……、その、別に痛くは」


確かにちょっと、ヒリヒリするけど。


「そういう問題じゃない」


不機嫌そうに吐き捨てた社長が、ひとつため息をついて傷口を避けながら頬を撫でる。


「怖いか?」


問われた言葉の意味が一瞬分からなくて、少し間をおいてから、目の前の男に対する感情を尋ねられているのだと理解する。

怖いだなんて、まさか。

首を横に振ると、社長は何かを堪えるように唇を引き結んで――私を、抱き寄せた。


「しゃちょ、」
「身体、震えてる」


言われて、確かに指先が小刻みに震えていることに気が付いた。気付いてしまったらもう駄目で、瞬くうちに全身に伝播する。


「す、すみませ」
「いいから」


社長の大きな手のひらが私の後頭部に回る。そのまま引き寄せられて、私の視界は社長の白いワイシャツでいっぱいになった。

くっついた額から、少しだけ早い社長の鼓動が聴こえてくる。それがなんだか、酷く安心する音で。


「強がんなくていいから」


ほんのりと呆れを含んだ優しい声に、自分でも分からないほど緩んでいた涙腺は、あっという間に限界を迎えたのだった。


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