密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「ひとりで全部背負い込んで、声を我慢して泣くのは辛いだろ?」

体を離した君塚先生に美しい形の瞳で見つめられ、瞬きも呼吸さえも忘れる。

「俺に、全部委ねるか?」

君塚先生は静止する私の頬を手のひらで包み込むと、美しい顔をこちらに接近させた。

色気を宿した眼差しに吸い込まれそうな錯覚を起こす。

「あ、の……君塚先生?」

酔いが回り、頭の中は霧がかかったかのようにはっきりしない。涙で視界も潤んでいる。

「さっきはリスキーなことはしないと言ったけれど、撤回させてくれ」
「へ?」
「弁護士である前に、ひとりの男としてきみに触れたい」

きょとんとする私と君塚先生の唇が重なる。
驚く間もなく、やわらかい感触を確かめるがごとく、優しく食まれた。

え、キス……?

頭の中で、この状況を整理する猶予もない。
なめらかに唇を割った君塚先生の舌が私の口内に侵入してくる。

「んっ……ふ」

深くなる口づけに、首の角度を変えるとき吐息が漏れた。
君塚先生に体を支えられ、熱におかされクラクラする頭で私はふらりと立ち上がる。

「嫌なら、ここで止めるけど」

私は潤む目で君塚先生を見上げた。

ここで止める、って……。
キスの先があるの?

これまでこんなふうに会ったばかりの男性とキスした経験なんてないけれど、不思議と彼には嫌悪感は微塵も抱かなかった。
むしろ、祖父母を慕ってくれていたからか、なんだか懐かしく感じて安心する。

もっと、この先を知りたいと思ってしまう。

抱きしめられたときのぴったり吸い付く感覚と、さっきの陶酔する心地よいキスがその証拠だった。

でも……。
このまま出会ったばかりの人と?さすがに軽く流されすぎてない……?

アルコールで侵された隙間でわずかに残った理性が、頭の中で葛藤する。

それをどう伝えたらいいのかわからず押し黙っていると、無言は首肯と取られたらしい。
< 13 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop