密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
エレベーターで最上階まで上り、一軒目のドアを開けて中に入る透真さんの後に続く。

「お邪魔します」

透真さんのお宅は、玄関からして豪華だった。
大げさじゃなくうちの居間くらいの広さで、大理石の床が白く輝いている。私は端の方にパンプスを揃えて脱いだ。

複数のドアを通り過ぎ、リビングは突き当たりにあった。大きな窓に面していて、広々とした空間にはシックで落ち着いた色合いのおしゃれな家具家電が置かれている。

まるでモデルルームみたい……。
家具もさぞかし高価なのだろうな。こんなに素敵な部屋で三ヶ月過ごすなんて緊張する。大切に使うよう心がけないと。

「この部屋を使ってくれ」

透真さんに案内されたのは、ベッドにテーブルだけのさっぱりとした広い部屋。

「来客用だがほとんど使ってない。好きにしてかまわない」
「そうなんですね、ありがとうございます」

荷物を運び一息ついて、トイレやお風呂の広さに驚いたり、リビングの大きな窓から景色を眺めたりしていると、あっという間に夕方になった。

夕飯はどうしようかな。簡単なものなら作れるけれど、透真さんはいつもどうしているのだろう。
私の手料理でも食べてくれるだろうか。

「ピザでもテイクアウトするか。商業施設のフロアに人気のイタリアンがある」

キッチンをウロウロしていた私に透真さんが言った。
テイクアウトもいいけれど、同居の初日だし、このあいだの唐揚げのお返しもしたい。

「あの、もしよかったら、私に作らせてくれませんか?」

私は思い切って提案した。
今日だってわざわざ忙しいのに仕事を調整し、午後休にして引っ越しに付き合ってくれたんだ。これくらいしないと。

「祖母ほど上手ではありませんが、よく料理の手伝いはしていたので」
「それならお願いしよう。なかなか手料理を食べる機会もないから楽しみだ」

透真さんが頬をほころばせる。
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