密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
ハードルを上げてしまったことを後悔しつつ、そうと決まれば私たちは一緒に食材の買い物に出かけた。
向かった先は、青空商店街。さっき荷物を取りに来た、石橋仕出し店兼私の実家がある場所だ。

青空商店街は駅北口から続くアーケード街で、夕刻とあって行き交う人々で混んでいる。
青空商店街にあるほとんどの店舗は元々、駅南口を出てすぐの住宅街にあったのだけど、街の再開発事業のため移転したらしい。私が生まれる前の話だ。

「透真さんは食べたいものとかありますか?」

私は並んで歩く透真さんに尋ねる。

「そうだな、今夜は春香さんの得意料理が食べたい」
「え!」

予想外の返しに足を止めて後ずさる私を見て、透真さんはクスッと笑った。

「本当になんでもかまわないんだ。好き嫌いは特にないし、千代さんの孫の手料理が口に合わないはずがない」

心得顔で言われ、私はプレッシャーに負けそうになりながら口を開く。

「じゃ、じゃあ、適当に何品か作り慣れてるものにしますね」

精肉店で本日のおすすめの鶏もも肉を購入した。今日は唐揚げではなく照り焼きにしてみよう。こちらも祖母の人気惣菜だった。

「春香ちゃん、久しぶりだね! 元気かい? これ、よかったら食べて! おまけのコロッケ」

昔なじみの精肉店のおばちゃんが、ニコニコ顔で人気の手作りコロッケを紙袋に入れて持たせてくれた。

「ありがとうございます! いただきます」

店を去るときぺこりと頭を下げると、おばちゃんは品物を持ってくれた透真さんを興味津々な目で見ていた。

あとは豚汁なんてどうだろう。隠し味はみりんだ。それから酢の物と、旬の魚があったら焼こうかな。

献立を考えながら次の店に向かって歩いていると、私はすれ違う人々や買い物中のお客さんから注目を浴びていることに気づいた。わざわざ振り返って見る人もいる。
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