密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました

透真さんとの生活が始まって一ヶ月半。契約期間のちょうど半分が過ぎた。

彼の朝は早い。七時過ぎに出勤、食事はコーヒーと、時々パンのみ。

夜は早いと九時頃に帰宅するけれど、日付が変わるのも珍しくなく、二足のわらじ生活はすごく忙しくて大変そうだ。

それでも透真さんは、帰宅する時間をその日の昼頃にメールで伝えてくれる。なんだかこのやり取りは本物の夫婦のようでこそばゆい。

食べたいものも伝えてくれるので、私は張り切って料理をした。
喜んで食べてくれる人がいるのは、こんなにうれしいんだって初めて知った。祖母もこんな気持ちでいてくれたのかなあと温かい気持ちになる。

週末も仕事の日が多いけれど、時間があれば青空商店街に買い物に行ったり、おしゃれな雑貨屋で足りない食器を買い足したり、少し遠いパン屋まで散歩がてら朝食用のパンを買いに行ったりする。

お互いの生活リズムが掴めてきて、無理なく過ごせているし主婦生活は充実していた。

同時に私は職安に通って仕事探しの日々。
何件か面接に行ったけれど、今のところ正社員では縁がなく落ち込んでしまう。
透真さんに同情されないように、なんとか残りの一ヶ月半で仕事を決めなければ。

そんな決意をした週末のある日。

「丸一日休みが取れそうなんだ。どこか行きたいところはないか?」
「えっ、今日ですか?」

透真さんからの突然の誘いに、私は驚きつつも胸を高鳴らせた。

「ええと、ちょうど観たい映画があるんですけど、どうですか?」
「了解。じゃあ行こう」

短く会話は終わり、私はきょとんとする。

「い、今からですか⁉」

透真さんは当然だという様子で、ハイネックのカットソーの上に黒いジャケットを羽織った。
一方の私は、一枚でさらりと着れる紺色のロングワンピース。

こんな地味な格好で、今から映画デート⁉
もう少しマシな服に着替える暇などなく、メイクだけパパッと直して颯爽と出かける透真さんの後を追った。
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