密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「いえ、大丈夫です」

心ばかり笑顔を浮かべ、私は首を横に振る。

「でも、顔色が……。ご主人に連絡する?」

店長がそう聞いてきたのは、先日透真さんが私を迎えに来た様子をスタッフたちが見ていて、イケメンで優しい夫だと有名になったからだと思う。

店長は、今日も連絡すれば迎えに来ると思ったのかもしれないけれど、透真さんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
それに今夜は、仕事で帰宅が遅くなると出勤前に話していた。

「本当に大丈夫です! お気遣いありがとうございます。お先に失礼します」

声のトーンを努めて明るくすると、私は店長にぺこりと頭を下げた。

ロッカーで着替えると、扉に設置された鏡には青白い顔をした自分が映っている。

なぜ今になって……。

考えたって答えの出ない疑問を何度も何度も頭に浮かべ、重い足取りでカフェを出た。
鉛のような体を引きずって歩き、テナントが並ぶ通路に設置されたベンチに座る奥さんを発見する。

彼女は唇をきつく結んだまま、私を一瞥した。

「あの、私」

奥さんの前に来て、絞り出すような声を発した矢先。

「私、やっぱりあなたに慰謝料を請求します」

キッと鋭い目で私を見上げる彼女は、毅然とした物言いだった。

「……慰謝料?」

突然の宣言に、私は頭を混乱させる。

「私、百瀬店長と不倫なんてしていません……!」
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