密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
心配でカフェに迎えに行ったとき。
俺はふたりが話しているのを見て、春香から死界になる背中合わせの席に座った。会話の内容からセレクトショップの店長だと判り、こっそり録音していたのだ。

不倫でっちあげの件は春香に聞かされたときから気になっていたし、いずれ必要になるかもしれないと思い念の為に録っておいた。

「ご主人ははっきりと、『俺たち不倫なんてしていないのに』と話していますが」

俺が切り出すと、百瀬の妻はぴくりと片眉を上げる。

「夫が嘘をついている可能性もありますよね」
「これはご主人とうちの妻がふたりきりで話していた場面を録音したものです。真実を知る相手に嘘をつく必要がありますか?」
「録音だけではふたりきりとはわかりません」

どうしても夫が不倫していたことにしたいのか。
早々に決着がつくと踏んでいた俺は内心うんざりしながら息を吐いた。

「うちの妻に証拠があるとおっしゃったそうですが、それはどんなものなのですか?」

辟易しながら尋ねると、百瀬の妻は不機嫌そうな顔で口を閉ざす。

「本当にあるんですか? まさか捏造なんてしていませんよね?」

挑発すると、小鼻を膨らませた。

「捏造なんてしてませんけどっ!」

春香がヒヤヒヤした顔で俺と百瀬の妻を見比べている。

「証拠の捏造は刑事罰に問われますよ」

追い打ちをかけると、百瀬の妻は苛立たしげにバッグの中から封筒を取り出した。

「証拠はこれです!」

封筒の中に入っていたのは、数枚の写真だった。

居酒屋と見られる座敷席で、酔っ払って項垂れる百瀬を抱きかかえるような体勢で介抱する春香の様子や、百瀬と春香が一緒にタクシーに乗り込む瞬間などが写っている。
他の数枚もふたりが楽しげに談笑しているもので、たしかにこうして場面を切り取ってみるとふたりの距離は近く、親しげである。

「この写真はどこで手に入れたのですか?」
「……」

仏頂面の百瀬の妻に俺が質問を無視されていると、「これ……」居酒屋での写真を一枚手に取った春香がまじまじと見つめながらつぶやいた。

「この写真を撮れる席にいたのは、玲子さんです」
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