密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました

実家の相続登記の手続きも無事に済み、あとは大仕事にむけて体調管理をしっかりしながら過ごした。

少しずつ秋が深まり、木々の枝葉が鮮やかに彩り始めた頃。

通っていたクリニックで、無事に我が子が誕生した。
健診で告げられた通り元気な女の子で、千愛（ちえ）と名付けた。透真さんからの提案だった。

祖母の漢字が一文字入っているのがうれしくて、私は即座に気に入った。
寝不足の頭のうえ、慣れない手つきでミルクやおむつ替えに奮闘しながらも、世界一かわいい千愛の安らかな寝顔を見るのは幸せを感じる。

たくさんの人から愛されて、すくすく成長してほしい。そしていつか、愛する人と幸せになってほしい。
私がそうなれたように。

親になった私たちも、限りない愛情を注いで大切に育てようと心に誓った。

千愛はそんな私たちの願い通り、健やかに成長して、翌年の春には離乳食が始まった。

離乳食作りは、最初は本を見ながら四苦八苦していたけれど、中期のモグモグ期が始まると取り分けにも慣れてきて献立を考えるのが楽しくなってきた。

弁護士と副社長という多忙を極める二足のわらじ生活を送る透真さんは、千愛が生まれてからもなかなか育児に参加できない日々が続いている。

その代わり、週に一度のお休みの日は、朝から晩まで千愛にかかりっきりだ。
ミルクにも寝かしつけにも奮闘してくれて、普段はクールな透真さんの愛情深いパパの表情を見られるのが新鮮でうれしい。

千愛のお風呂の時間に合わせた早めの夕飯が出来て、ダイニングテーブルに並べる。
先に大人用の食事を並べ、キッチンで千愛の分を用意していると、リビングからキャアキャアと騒ぐ声が聞こえてきた。

「ママ、千愛はこっちの唐揚げが食べたいそうだよ」

ダイニングテーブルに取り付けたベビーチェアに座り、愛らしいヒヨコのイラストが描かれたエプロンをした千愛が食卓に並んだ唐揚げを見て、手をパタパタと動かしている。

透真さんは珍しく困り顔だ。