密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「えっ! 揚げ物なんてまだ無理ですよ」

それでも食べ物に興味があるのはいいことなので、私は急いで離乳食を運ぶ。

「はい、千愛はこっちね」

玉ねぎや人参を細かく刻み、鶏ひき肉と一緒に出汁で煮たものに片栗粉でとろみをつけ、豆腐にかけてみた。
千愛は私たちに似て食べるのが大好きらしく、作り甲斐がある。

「へえ、千愛のも美味しそうだな」

小さな食器の中を覗いた透真さんが、なにげなくぽつりとつぶやいた。

「味っ気のない麻婆豆腐みたいな感じですよ」
「千愛、ママが料理上手でよかったな」

透真さんの何気ない千愛への声かけに、心がほっこりと温かくなる。

食べてくれる人がいるから張り切れるんだ。
私はいつも、どんなに忙しくても食べたいとリクエストした料理を作ってくれた祖母の優しさに心を寄せる。

「……私、透真さんに出会って救われました。こうして料理を食べてくれる家族ができて、とっても幸せです。私と結婚してくださって、ありがとうございます」

唯一の肉親である祖母を亡くし、仕事も失って途方に暮れていた私は、およそ一年後にこんなに幸せがあふれる光景が目の前に広がっているだなんて、とてもじゃないけど想像できなかった。

だからこそ胸がいっぱいで、私は今、透真さんにどうしても伝えたいと思った。

これからは透真さんや千愛が食べたいと望むものを食卓に並べて、祖母からもらった愛情を受け継いでいきたいな。
私が得意な料理もどんどん増やし、毎日家に帰ると温かい食卓が待っているのだと、家族には安心して生活してほしい。

「礼を言うのはこちらの方だよ。忙しくて育児に協力できないのは申し訳ないと思ってる。いつも家事に千愛の子育てに、どうもありがとう。お疲れ様」

労ってくれる素敵な旦那様が、私の頬に唇を寄せる。
千愛はきょとんとした顔で、ママとパパを見比べた。
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