*触れられた頬* ―冬―
 撤去・移動・搬入に、打ち合わせと休息の一日を含んだ四日間、ついにモモは自分のいた児童養護施設から数キロ程度の地へと降り立った。

 しかし結局初日公演までに、故郷(ふるさと)とも言うべき(えん)には足を踏み『出さ』なかった。

 いや、実際には行きたくとも踏み『出せ』ない理由があった。

 そんな立ち往生(おうじょう)のモモが二日間の興行を終え、初めての日曜午後後半の演目を無事にこなし終幕した頃──。

「モモー、知り合いが面会に来てるってよ~」

 舞台裏で一息つこうとしたモモの背後から、スタッフの声が呼び掛けた。

 踏み出さずしてあちらからやって来てくれた『彼』等に、心の準備が出来ないまま遭遇する羽目となった──。



 ☆ ☆ ☆


< 8 / 238 >

この作品をシェア

pagetop