エリート外交官は別れを選んだ私を、赤ちゃんごと溺愛で包む

番外編

「ふにゃふにゃしてるな」
「はい」
「……あったかいな」
「はい」
「すごく可愛い」
 勇梧さんが産まれたばかりの女の子──私が産んだばかりの赤ちゃんを抱っこしてふにゃりと笑った。この人がこんな蕩ける表情をするのが、私たちの前だけなのはもったいないような、特別を独占してくすぐったいような、不思議な気持ちだ。
 私は産院のベッドに横になり、傍の椅子で赤ちゃんを恐々と抱っこしている勇梧さんを見上げた。
「慶梧は会いたがってませんでしたか」
 勇梧さんが苦笑して肩をすくめる。
「けーごもいく! と聞かなかった」
 私が選んだ産院は、感染症予防のため退院まで赤ちゃんと兄弟は会うことができない。
 ……と言っても、この子を産んだのは勇梧さんの赴任先である中央ヨーロッパのとある国。日本のように一週間近くも入院はさせてくれない。経産婦である私は、明後日には退院することになっていた。……けれど。
「私も寂しい。会いたいです」
 胸がキュッと痛む。あの子は泣いてないだろうか、とそんなことをつい考えてしまって……
 ん、と勇梧さんが頷く。
「伝えておく」
 そう答えながら、赤ちゃんを大切そうに抱き直し、私を少しじとりとした目で見てくる。
「……? どうしました」
「俺は」
「え?」
「俺といられないのは寂しくないのか? 起きて横に君がいないと、俺はかなり寂しい」
 少し拗ねた言葉に、思わず吹き出す。勇梧さんは微かに目元を赤くして頬を緩めた。
「冗談だ。……半分、は」
「半分?」
 そう、と答えて勇梧さんは赤ちゃんを私の横にそっと置いた。そうして私の頬にキスをして、ゆっくりと微笑む。
 慶梧の前ではこんなふうなヤキモチを出すことは絶対にしない人だけれど──
 クスッと笑った私の唇に、キスが落ちてきた。すぐ離れる、優しいキスだった。
 私は赤ちゃんのまだ薄い、細い髪をそっと撫でながら口を開く。
「名前、決めてくれました?」
「ああ。太陽の陽に夏、でハルカはどうだろうか」
 私は目を瞬く。
「春生まれなのに夏?」
 ハルカ、という響きは春を連想させるけれど。
「この子がお腹にいることを教えてくれた、あのひまわり畑──向日葵のような、太陽のような子になってほしい」
 私は赤ちゃんに視線を移す。
「ハルカちゃん」
 名前を呼ぶ。
 小さないのちが、ふにゃふにゃと笑った。
「笑った」
 勇梧さんが嬉しそうに言う。反射で起きる新生児微笑ですよ、と言いそうになって口をつぐんだ。どっちでもいいか。ひとつ、確かなことは。
「可愛いですね」
「なあ、可愛いな」
 勇梧さんがハルカの頬をツンツンと突いた。

 窓からは春の日差しが降り注いでいる。
 なんとなく、じんわりと、幸せを感じている。
 
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