これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
「で? 徳井さんに指輪のこと聞いたの?」

弘樹はおつまみを口にしながら、逸れまくった話を本筋に戻した。
カウンターには、注文したビールと芋焼酎のロック、フライドポテトやスルメイカが並んでいる。
お洒落なカフェバーなのに、雰囲気ぶち壊しの居酒屋メニューをオーダーするわがままな私たちに、文句一つ言わない武志さんの優しさに弘樹はもうメロメロだ。武志さんはノンケ……女性が好きなのだろうけど、私としては、弘樹の恋を、リアルBLを応援したい。
ビールを一気に半分まで飲み干した私は、カウンターにドンッと音を立てて、グラスを置いた。

「いや、それがさあ、うっかり聞き忘れて……」
「おバカ! 何でそこ聞かないの!? 指輪のこと、気にならないの?」

私の返事に、被せ気味に弘樹が答えた。
私よりも恋愛経験が豊富な分、弘樹の方が女子力は断然高い。私は昨日、結納の席で徹也くんからもらった指輪を見つめながら返事をした。

お見合いの練習の日から約二か月が経つ。
その後数回、仕事終わりに食事に行ったり映画を観に行ったりとデートらしきことはしたけれど、婚約指輪はおろか結婚指輪の話なんてしたことなかったから、まだ一緒にジュエリーショップにも行っていない。だからこうして婚約指輪を用意してくれているだなんて思いもしなかったのだ。
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