ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
「だから聖女様は殺せないです。殺させたくもありません。あなたのような美しい聖女様ならなおさら、ね」

「そ、そんな、美しいだなんて……」

 唐突に真剣な表情で容姿を()められて、思わずドキリとしてしまう。

 えっと、それは聖女だからって意味だよね? 頬が熱くなる感覚に動揺しながら私は平静になろうと精神を落ち着かせようとする。

 こちらの国も敬虔(けいけん)なエーメル教の信者は多いと聞く。

 国内に聖女と呼ばれる人物がいないからこそ、その存在が大きいというのもなんとなく理解はできる。

 だからなのだろうか。レオンハルト様が私を幽閉するだけにとどめようとお思いなのは……。

「では私はどこかに閉じ込めたままにして終わりにするおつもりですか? 魔王になったとき、対策を考えると結論を後回しにして」

「おや? なぜ僕があなたをどこかに閉じ込めると思われたのですか?」

「えっ? それは、その。私の秘密を知った以上は好き勝手にさせられないと考えるのが自然かと思いまして……」

 幽閉されていたとゲーム知識で知っていたとは言えず、私は少しだけ返答を詰まらせる。

 だけど殺さないのであればそうするしかあるまい。

 いつ魔王に覚醒するかわからない者を自由にさせるとは思えないからだ。

「好き勝手にしていただいて構いませんよ。もちろん、できるだけ屋敷内で生活してもらったほうが助かりますが拘束するつもりはありません」

「ですが……」

「僕はあなたを魔王にさせたくない……。なんとか助けたいと思っています」

 眼鏡を外して、レンズを拭きながら彼は寛大な言葉を私にかける。

 そうか。この人の中には最初から魔王討伐などという選択肢はなかったんだ。

 人質となった聖女リルアを不憫(ふびん)に思って、最期までなんとかしようと足掻(あが)いてくれていたのか……。

 この人は強い自信を持っている。それに彼のその実績はそれが過信でもないことを示している。

 だからこそこんなにもレオンハルト様の言葉には安心感があるのだ。

(でも、それでも私は知っている。それゆえに起こってしまった悲劇を。私は知ってしまっているの)

 ここにきてようやく私は全貌が読めてきた。

 このゲーム屈指のチートキャラクター錬金公爵はその優秀さゆえに判断を誤ったのだ。

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