ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
 せっかく前世の記憶もあるんだからそれを活かさずして、どうする。行動しなきゃ……!

 ここまで自分の境遇に戸惑ったり、悩んだり、感情が追いつかなかったりしたが私は覚悟した。

 運命という便利な言葉に逃げず、悲劇的な結末を回避しようと。

「さて、それではお茶会はこの辺でお開きにしましょうか? メイドにあなたの部屋に案内をさせます。今日のところはゆっくりとお休みになって――」

「ちょっと待ってください!」

 紅茶のおかわりをいただかなかったからなのか、レオンハルト様は話を終わらせようとする。

 いけない。このまま話を終わらせてはいけない。

 悲劇の結末を回避するには彼の協力も必要不可欠だ。

 巻き込むことになるのは申し訳ないが、このままだとまずいことになることは伝えておかないと……。

「あの、レオンハルト様の厚意は嬉しいのですが……私、知っているんです。あなたが失敗して私が魔王になってしまうことを」

 なにを話せばよいのか迷ったが、私はできるだけストレートな言葉を選んだ。

 それはレオンハルト様のプライドを傷つけるような言い方だが、変に遠慮しても仕方ないと思ったのだ。

「おやおや、それは奇っ怪な言い回しをされますね。知っている……つまりそれは予言かなにかの(たぐい)ですか?」

 私の乱暴な言い回しを聞いても彼は落ち着いた表情を崩さない。

 ただ、不思議がっている。わざと私がそういう伝え方をしたから。

 そこに違和感を覚えないはずがないと信じていた。

「予言、ではありません。似たようなものですが、違います。私は知っているのです。この先自分が魔王として覚醒してあなたを殺すことも。そして妹のシェリアに殺されることも」

「ふむ……。あくまでもこれから起こり得る事実として知っている、そう主張をされるのですね。面白いことを仰る」

「申し訳ありません。こんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話、信じていただけませんよね?」

「とんでもない。僕は理解が追いつかないくらいで信じないと切って捨てるほど頭は固くありませんよ」

 レオンハルト様は立ち上がり、カップに紅茶を注ぐ。

 そして私のティーカップにも紅茶を淹れ直して、それを差し出した。

 湯気が出ている。おそらく魔法か錬金術で紅茶を温め直したのだろう。
< 29 / 32 >

この作品をシェア

pagetop